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【UTCP Juventus】 早尾 貴紀

2010.09.03 早尾貴紀, UTCP Juventus

 UTCP Juventus第15回は、PD研究員の早尾貴紀が担当します。

 私はヨーロッパ社会思想史を専門としていますが、ヨーロッパ内の反ユダヤ主義への関心から、現代のパレスチナ/イスラエル問題にも関わっています。

1、
 UTCPでは、「共生」の問題をパレスチナ/イスラエルという現場において考える、あるいは共生という問いをパレスチナ/イスラエルという場に照らして鍛える、ということを研究活動の課題としてきました。
 とくに、イラン・パペ、カイス・フィロ、サラ・ロイ、メロン・ベンヴェニスティといった重要人物を毎年のように招いて対話を重ねてこれたことは、きわめて貴重な経験でした。実際これだけの招聘企画は、中東地域を専門とする研究機関でも実現できていないのではないかと思います。
 そのうち、イスラエル建国神話の批判とパレスチナ人との歴史の共有に取り組んでいるイラン・パペ氏の講演は『イラン・パペ、パレスチナを語る』(拓殖書房新社)として編訳刊行。また、ホロコースト生き残りの娘としての倫理とパレスチナ占領政策とくにガザ地区の専門家として注目されるサラ・ロイの講演・対談は『ホロコーストからガザへ』(青土社)として編訳刊行しました。いずれも、パレスチナ問題を考えるときの必読文献に数えられる貴重な本となりました。
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 私自身は、UTCPの仕事として招聘企画を担当し、かつこの二冊の編訳に携わり、大いに学ぶところがありました。

2、
 こうしたパレスチナ/イスラエル問題を、ヨーロッパ思想史から再考した仕事を、単著『ユダヤとイスラエルのあいだ』(青土社)としてまとめましたが、その後、国民国家をその対極から掘り下げるために、「ディアスポラ」概念に着目。難民や移民やマイノリティなど、正統な国民の〈外〉に置かれたディアスポラの民の代表でったユダヤ人の歴史的体験を、普遍的な思想へと開いていく作業として、ボヤーリン兄弟による『ディアスポラの力』(平凡社)を翻訳紹介。
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 さらにその後、カリブ、アルメニア、華僑、在日朝鮮人などなどの研究をしている同世代の友人らとディアスポラを共通テーマとしてワークショップを開催し、その成果を『ディアスポラから世界を読む』(明石書店)として世に問いました。続けて、ボヤーリン兄弟に加えて、ポール・ギルロイ(ブラック・アトランティック研究)とガヤトリ・スピヴァック(インド・サバルタン研究)とを並べて討議するシンポジウム「ディアスポラの力を結集する」を開催。それを元にした単行本も、まもなく刊行する予定です。
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3、
 今後の研究予定としては、イスラエル建国を進めたシオニズム運動を多面的に再考する共同研究「シオニズムの解剖学」のシンポジウムを10月に開催し、その後論文集としてまとめていくことになります。
 また「国家論」をディアスポラの観点も含めて、その変容において捉え直す思想史研究を進めており、これは書き下ろしの単行本となる予定です。
 ほかに、先述イラン・パペの民族浄化論、ハミッド・ダバシのオリエンタリズム論などを、友人らと共訳予定。その他、入門書的な仕事も進めているところです。

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