【報告】2025年度 UTCPキックオフシンポジウム「共生の物語 Stories of Empathy」(前半)
2025年7月6日(日)2025年度UTCPのキックオフシンポジウム「共生の物語 - Stories of Empathy」が開催されました。昨年に続き、一般社団法人シブヤフォントとの共同主催で、東急プラザ原宿「ハラカド」にあるシブヤフォントラボにて行われました。
「共生の物語 - Stories of Empathy」というテーマの元、互いに違う観点や立場の人たちがどのように対話(ストーリー)を紡いでいき、違った人生や経験のある他者と、どう歩み寄り共生できるかをそれぞれのゲストの観点からお話ししていただきました。

前半のゲストはアジアンドキュメンタリーズ代表の伴野智さん。アジアンドキュメンタリーズはアジアを中心としたドキュメンタリー映画専門の動画配信サービス。2018年にスタートし、今ではアジアを中心に約40ヶ国に及ぶ制作者や配給会社と直接契約しています。毎月新作を公開し常時340本以上のドキュメンタリーを届けています。
アジアンドキュメンタリーズを始めたきっかけ
伴野さんはかつて映像プロダクション会社で20年に渡りディレクター・プロデューサーとしてドキュメンタリーも含め劇場映画やテレビドラマなど多岐のジャンルの映像作品の制作に関わった。のちにドキュメンタリーのみの担当になり、自分はどんな作品をつくりたいのか?そもそもドキュメンタリーとは何なのかを問うようになったという。
日本のテレビでのドキュメンタリー制作面では予算と時間などのさまざまな制限もあり、配信される機会も少ないという。また特に日本人はドキュメンタリーはつまらないものだとか、面白くないんじゃないかっていう先入観があるという。制作側もヒットの型にはめるパターンが多くサブジェクトも深掘りしなかったり綺麗事で終わらせる傾向もあるという。また、世の中で大々的に配信されているドキュメンタリー映画の大半は欧米諸国で制作されているものが多く、アジア諸国観点もしくは発信のドキュメンタリーが配信されている機会が少ないと気づいたそう。
そこで伴野さんはプロダクション会社で勤めながら、2018年にアジアンドキュメンタリーズを立ち上げた。周りにはドキュメンタリーなんて儲からないといわれながらの決断だった。仕事終わりに夜な夜なドキュメンタリーを選択し、自身がボランティアで字幕を付け、ない場合には自ら予告動画も作るという。月額990円という中で最初の1年は登録者100名で必死になって運営を続けた。現在では数万人の登録者がいるという。

多様多種な作品の選択
そこで、ドキュメンタリーの選別の基準について聞くと、アジアと関係していることと共に、何かしら世界で起こっている社会課題がテーマであることという、また作品を選ぶ時に映画好きの人をターゲットにしないと伴野さんはいう。一見不思議そうではあるがそこにはれっきとした理由もある。ドキュメンタリーはある意味社会の縮図を物語っていることが多いため、どれだけリアルに人々の生活や社会課題を写しているかが大事だという。アジアンドキュメンタリーズではドキュメンタリー映画好きの人により、まずはドキュメンタリー映画の意義や面白さを、ドキュメンタリー映画をこれまで全然観たことのない人に知ってもらう心がけをしている。伴野さんは監督の過去の評価や映画祭での実績、業界での話題性などは後からついてくるものだと感じており、アジアンドキュメンタリーズは社会問題に対して興味がある方や、国際的な視野を持っている方はもちろん、特に逆にドキュメンタリーを観たことがない人に向けて作品選びをするように心がけている。
また必ず我々が世界人として共感し感じている様々な社会課題に紐づけて作品選びもするという。例えば今サイトで人気があるインドの電力問題を取り上げている「街角の盗電師」。映画は滞納者を探し出し、契約者を必死に増加しようと電力会社の立場と地域に十分な電力普及がされないまま値上げされる電力に対抗しようとする停電が起きるたびに電線に細工をして、違法配線でタダで電力を使えるようにしている盗電師の抵抗の物語。一見インドの問題だけと捉えがちだが、そこには提供者と需要者のパワーバランスが見事に描かれ、ここ日本における大手企業と顧客もしくは行政と一般市民の関係性にも置き換えることができる。

ドキュメンタリーと共感
そう考えるとドキュメンタリーは現実を描写する物語を通して音と映像を通して人々の想像力を刺激し、自分と違う立場の人々への理解や優しさを育むことができるのではないかと伴野さんはいう。
最近ではサイトに「倍速で見られるオプションはないのですか?」という質問もよくくるという。しかしアジアンドキュメンタリーでは絶対そのオプションを付けないという。というのも(倍速で見た場合)内容は入ってきても製作者が意図するストーリーの流れや間など肝心な感情の理解はわかりにくくなり、視聴者の深い理解には繋がらないという。
まさに現代社会における想像力と共感の欠如を懸念した上での伴野さんのこだわりの一つ。
共感という意味ではアジアンドキュメンタリーは配信だけでなく様々な繋がりの場を提供している。月一で行っている、完全予約制のドキュメンタリーサロンは、日本橋の事務所に視聴室を設置し、お客さんが同じ映画を一緒に鑑賞し、鑑賞後にに対話する場を儲けている。また最近では伴野さん自ら小中高大と教育の現場に出歩き、ドキュメンタリー映画を学校教育に活用するプログラムも提供している。作り手の強いメッセージや主張通して現実と向き合うことで子供や青年たちに「知る」→「学ぶ」→「考える」という機会を得ることを普及している。
また最近では伴野さんは佐渡島で古民家を購入し、アジアンドキュメンタリーズの新しい拠点にしたいと考えているそう。そこではドキュメンタリツーリズムを計画しており、離島の人々の日常生活を記録したドキュメンタリーも製作中だという。
シリアスな課題に時々笑いやユーモアを交えながら約1時間にわたって語った伴野さん。共生の意識を生み出すためには発信側が自身の伝えたいことの軸をしっかり持つと共に、受信側の立場に身を置き、柔軟に歩み寄りながら、知識と共感の様々な受け取りの器を作っていくものだということが伺えた。(報告:ライラ・カセム)

後半の報告はこちらです。






