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【参加報告】CSCD主催「第7回 科学技術コミュニケーションデザイン・ワークショップ」

2010.07.05 └イベント報告, 石垣勝, 科学技術と社会

大阪大学コミュニケーションデザイン・センター(CSCD)主催の「第7回 科学技術コミュニケーションデザイン・ワークショップ」が、2010年6 月12・13 両日にわたり同大学豊中キャンパスにおいて開催された。合わせて25名前後の方々が参加されたと思う。以下では、UTCPからこのワークショップに参加した「科学技術と社会」プログラムRAの石垣勝がその参加報告をおこなう。

今回の主要テーマは「Deliberating Polling(討論型世論調査)の可能性」である。プログラムは、初日の「参加者の実践報告」と「科学技術に関するDeliberating Pollingの可能性(1)」、2日目の「科学技術に関するDeliberating Pollingの可能性(2)」という3部で構成されていた。

開会の挨拶でCSCDの小林傳司氏は、現在、政府が策定中の「第4期科学技術基本計画」の中に「テクノロジー・アセスメント(TA)」という概念が、4期目にして初めて明記されるであろうことについてお話しされた。これにより、TAが今後ますます注目されることが予想される。こうしたなかで、TAに取り組む研究者たちが、どのように活動を展開し、社会にアピールしていくかが今後の課題となろう、との指摘をされた。

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「第1部:参加者の実践報告 計画と討議」における最初の発表は、北海道大学の吉田省子・大原眞紀・平川全機3氏が共同でおこなった「北海道BSE 問題を考える場:振り向けば、未来・・・触れられたくない過去を鎮魂の精神で共有する北海道の試み」である。ここでは、北海道で実施されているBSE全頭検査についての各ステークホルダー(酪農家、牛肉加工者、販売者、消費者、行政、研究者ら)が直接語り合う場「振り向けば、未来」の理念や構想から実践までが報告された。

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つづく「参加型手法に関するデータベースの構築」では、CSCDの山内保典氏が構想中の科学技術コミュニケーション手法のデータベース化についての概要説明をした後、その改善点や、今後どのようにデータベースの存在を周知し、事業として継続していくか・・・等々について議論された。

また、上智大学の濱田志穂・柳下正治両氏による「政策形成対話の促進:長期的な温室効果ガス(GHG)大幅削減を事例として」では、「低炭素社会づくり」をテーマとする、ステークホルダー間の「対話フォーラム」の実施状況について詳述された。この対話の目的は、合意形成にあるのではなく、ステークホルダー間対立のメカニズムを明らかにすることにある、とのことであった。

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第1部最後の、八木絵香氏(CSCD)による「原子力と「双方向」コミュニケーション 実装化の課題」においては、推進・反対双方の立場に公平な対話の場を目指す「原子力に関するオープンフォーラム」の活動が紹介された。八木氏によると、近ごろ資源エネルギー庁や宮城県庁といった、従来からの推進派によって対話の場が設けられ、それが事業化する傾向がみられるという。ただし、こうした動きに対して、そのじつ開かれた対話の場を設けていることをアピールしたい推進者の欺瞞に過ぎないのでは、という反対派の懐疑論も存在するとのこと。双方の溝を埋める作業は非常に困難なようである。

休憩時間を挟んだ後に再開された「第2部:科学技術に関するDeliberating Polling の可能性(1)」においては、 まず、前述の小林氏が昨年開催された 「World Wide Views(WWV) の実践報告」をおこなった。ここでは、WWVに参加した人たちにたいして実施された調査をもとにした質的・量的データの解釈法や、WWV参加者が「市民」の代表といえないなら、そこで取りまとめられた彼ら/彼女らの「声」とはいったい何か、等々の疑問が再提起され、話し合われた。

また、北海道大学の三上直之氏の「BSE に関するDeliberative Polling:北海道での社会実験の構想」では、北海道におけるBSE全頭検査に関するDP構想とその可能性について議論された。この実験は、参加者に対しDP実施の前・後で同じ質問をすることで、BSEにたいするイメージの変化を観察する試みだという。発表後の質疑応答では、参加者の選出方法の難しさや、イメージの変化が賛・否2つの選択枠組みを超えられない可能性、また、この実験そのものが予めイメージの変化を前提にしていないか、といった疑問が投げかけられた。

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この日最後となった平川秀幸氏(CSCD)の報告「再生医療に関する熟議型キャラバン2010」においては、DeCoCiS(Deliberation and Collaboration between Citizens and Scientist)プロジェクトについて議論された。これは、潜在的に社会的・倫理的な問題や対立を生む可能性のある諸科学技術を対象とするもので、それらを(科学的対象としてではなく)社会的対象として考え話し合えるサイエンス・カフェのような場を通じ、多様な人びとの関心や意見、懸念や期待などを把握、それを社会提言や政策提言に反映させようとする試みだという。

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2日目の「第3部:科学技術に関するDeliberating Polling の可能性(2) 」は、柳瀬昇氏(駒澤大学)の講演「討論型世論調査の意義と構造」である。柳瀬氏は法学者で、科学技術社会論や科学史を専門にしている方ではない。前日の実践をもとにした諸事例の報告とは対称的に、この講演はDeliberating Pollingの理論面をカヴァーするものであった。

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柳瀬氏は、従来の「コンセンサス会議」と「討論型世論調査」との相違点として、参加者の能動性と受動性、それぞれの参加人数、最終的に合意文書を作成するか否か、などを挙げられた。講演後の質疑応答では、参加者の選出や参加依頼の方法、また、参加者の市民としての正統性(あるいは代表制)への疑問、さらに、討議することの意義といった、科学技術コミュニケーションを考える上で根本的ともいえる議論が相次いだ。

ワークショップ最後の総合討論においても、科学技術コミュニケーションと政治(政策(者))との係わり(方)、コンセンサス会議や討議型世論調査実施のためのコストを誰に負担してもらうか、科学技術コミュニケーションの担い手となる人材をどのように育成すべきか、といった時に理念的な、時に現実的な問題について、時間いっぱいになるまで熱心に議論がつづけられた。

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けっきょく、報告された諸事例は、各々に個別の問題や困難を内在させていることが理解できる、が、すべての取り組みに共通して、すべての研究者がよりよき科学技術コミュニケーションの技法やモデル構築をめざし試行錯誤をつづけ、それ故、その構想や実施の途上において、自らの立ち位置をどうすべきかについて思い悩んでいることも分かった。

振り返ってみると、報告者もそれ以外の参加者も全員が積極的に発言する、まさに「参加型」のワークショップであった。UTCP「科学技術と社会」プログラムにおいても、このようなワークショップを開催できないものか、と考える今日この頃である。

石垣勝(UTCP・RA研究員)

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