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時の彩り(つれづれ、草) 094

2010.02.12 小林康夫

還暦

学年末の各種の試験、論文審査などに加えて、還暦の誕生日ということで連夜のお祝いの会、それに連載原稿とUTCP叢書のゲラ読みでブログを書く暇もなかった。

還暦について言えば、少し前なら今頃は最終講義をやっている歳かと思うとなんだかおかしい。自分がそういう歳に達したという自覚が全然ない。むしろ数年前などに比べたら、なんとなく若くなったというわけではないが、これでオシマイという感じよりは、いよいよこれから、という感じがするからいけない。こういうの傍迷惑なのかもしれないですね。とまれ、教え子というのか、現旧学生たちの開いてくれた会で言ったとおり、これまでの習慣のいくつかを解除して、そのことによって新しい世界に突入する、と行きたい。

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UTCPオフィスには、そうしたお祝いの会のひとつで古田元夫先生からいただいたベトナムの虎の掛け軸が飾ってある。千里行って、千里還り、いま新春。北京大学の王守常先生が揮毫してくれた論語の言葉に隠れた意味(中島さんが解説してくれた)のとおり、「知者楽」。そう、その「楽」の深さを味わいたいもの。


渡辺公三さん、ポストーンさん

少し前になるが、渡辺公三さんを迎えた講演会も、わたしにとっては、まさに暦が還って、20代に戻ったような楽しさだった。なにしろ憧れのパリにはじめて行ったとき(77年)、公三さんのアパルトマンに一月泊めてもらった。階下のパン屋の匂いからはじまって、白い漆喰の壁、曲がってのぼってゆく狭い階段、フランス窓越しに見える高架のメトロなどなど、すべてがわたしの魂をゆすぶった。安いワインを飲みながらいろいろなことをお喋りしたあのときの「合宿」の時間が戻ってきたか。今回は、クロード・レヴィ=ストロースについて、出たばかりの著書『闘う、レヴィ=ストロース』にそって鮮やかなピクチャーを差し出してくれた。会のあとの会食も久しぶりで気のおけない交流ができて嬉しかった。友あり遠方より来る、そう、時間は取り戻せないが、しかし回帰する、劇的に。

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という意味では、その前日、モイッシュ・ポストーン先生が「戻ってきて」くださったのも、わたしには嬉しい出来事だった。一昨年夏の「資本」をめぐる三回のセミナーはいまだに強い記憶である。その先生が東京滞在ということで、無理を言って、駒場にも来ていただいた。相変わらずのシャープな理論。わたしは外せない所用があって討議までは参加できなかったが、継続した関係を目指すUTCPにとっては、友人の再来は大歓迎である。

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