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【報告】菅原正教授講演会「物質と生命との間のミッシング・リンクを埋める」

2010.01.27 小林康夫, 近藤学, セミナー・講演会

2010年1月25日、菅原正教授(東京大学大学院広域科学専攻)による講演会「物質と生命との間のミッシング・リンクを埋める」が開催された。

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教授はまず生命と物質をめぐる知の発展史を簡単に振り返られた。19世紀、化学や生物学などの分野において従来の「自然発生説」が否定され、逆に無機物と有機物とのあいだに連続性を見る可能性が示唆された。しかしその後の展開のなかで生命と物質は独立した学問領域として別個に研究され、両者のつながりは「ミッシング・リンク」のまま残っているのが現状である。菅原教授とそのチームが近年、積極的に追求しているのがまさしくこの「失われた環」、つまり物質から生命への推移がどのようにして行われたか、という問題であり、本講演はこうした研究の実際を、映像を含めた多彩な資料を駆使して具体的に提示することを目的としていた。

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生命の定義として、現在おもに次の三つの性質が認められている。1) 外部から何らかのかたちで区別された内部を形成している、2) 触媒作用をもっており、外部の要素を合成分解して取り込んで自己を維持することができる、3) そうした合成分解を情報として遺伝子に記憶し、次の世代に伝えることができる。以上のような特徴をもった存在=細胞を人工的に創造することは従来不可能であるとされてきた。しかし菅原研究室では近年、生体分子(タンパク質など)を含まないにもかかわらず、上記の三要件を満たす分子集合体をつくりだした。言い換えれば、生命のもっとも基本的な特徴とされる振る舞い、「生命らしい」振る舞いを、非有機体のレベルで引き起こすことに成功したのである。解明すべき点はまだ多く残っているにせよ、この成果によって物質から生命への移り行きの、いわば第一段階が明らかになったのではないかと教授は述べられる。

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以上のような論旨が、映像資料を豊富に用いて活き活きと提示された。内容を細部に踏み込んで伝えることは、文字通りまったくの門外漢である筆者にはとうてい不可能であることを白状しなければならないけれども(最近の成果については菅原研究室ウェブサイト上で報告を読むことができる⇒こちら)、上述のように具体的なプレゼンテーションに加え、何よりも教授の情熱に満ちた語り口には大いに説得された旨、ぜひ記しておきたい。

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講演後は質疑/ディスカッションの時間が設けられた。司会の小林康夫・UTCP拠点リーダーはいつも通り適度な知的挑発をまじえた総括・コメントを行い、他方会場からは専門家や学生の方々によるそれぞれ濃密な内容の質問が発せられ、菅原教授はそのひとつひとつに対し真剣に応答された。本年度をもって定年を迎え駒場を去られる由であるが、今後ますますのご活躍を期待させる、知的刺戟に満ちた講演だった。

(報告:近藤 学)

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