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【報告】潮木守一「職業としての大学教授」

2010.01.29 └哲学と大学, 西山雄二

2010年1月28日、セミナー「職業としての大学教授 ― 人文系大学院の未来」が開催され、潮木守一(桜美林大学)氏のお話を聞いた。

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潮木氏は主に、近著『職業としての大学教授』(中央公論新社、2009年)に即して、大学院の問題と大学教員の採用・昇進制度の問題を、米英仏独の事情との比較を踏まえつつ指摘した。初めに、「大学制度に関しては、どこの国でも上手くいっているわけではないが」という留保が付けられた。

大学院の人材育成に関しては、他の4か国では博士号取得者が、大学行政職、NGOやNPO、一般企業などに就職する機会がある。しかも、自分の専門とはまったく異なる仕事ではなく、専門性を活かすことのできる仕事につくことも少なくはないという。潮木氏は、博士修了者の大学への就職について、その全容を調査し把握する機関が日本にはないことが問題だと指摘。文科省はそうした機関を率先してつくらないだろうから、大学の連合で手を打たなければならないとした。

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大学教員の採用・昇進制度に関しては、他の4か国では基本的に外部評価が主流である。ドイツでは同一大学での昇進が禁じられており、フランスでは大学審議会が人事に携わる。
同一大学内ではどうしても評価が甘くなり、研究教育の質の劣化を招くため、他の大学へと採用され昇進することになっている。日本では大学教員は終身雇用的な制度であり、エスカレータ式に昇級できる。そのため、日本の大学教員の構成は、教授40%、准教授24%、講師12%、助教20%、助手3%という異例の逆ピラミッド型となっている。

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最後に、潮木氏は「新規採用大学教員の採用前の状況」の資料グラフを説明した。平成18年度の採用数は11,700名だが、そのうち、「新規学卒者(大学院修了とともに大学教員に就職する者)」が約14%にまで落ち込んでいる(上図の青色最下層)。かつては35%程度を占めていたという。その代わりに、増加しているのが、「その他」のカテゴリーで約46%を占める(上図の上から2層目の赤)。ここにはおそらくアルバイト、非常勤講師、無職の者が増えており、博士課程を修了してから不安定な身分を引き受けなければ大学職に就くことが難しい現状を物語る。実際、毎年の博士課程修了者は16,000人だが、その新規採用数は5,000名から8,000名にしかならないという茨の道なのである。

大学院問題に関しては悲惨な話が付きまとうが、潮木氏はいつもためらいながら文章を書いていると告白する。事実をありのままに描くと悲観的になり、学問を志す者に対して逆効果をもたらすのだ。実際、本セミナーの雰囲気も悲惨な現状報告といった側面があったが、問題は悲惨話の拝聴ではなく、聞き手がその「語り口のとまどい」をまずは共有する点にあるだろう。

そもそも、研究や学問は面白いことを発見して驚き、喜びを感じることに尽きる。そうした気持ちで研究を続けていると、思わぬ仕方で、同じ問いを共有する友とめぐり会うことがある。それが大学院にとどまり、大学で仕事をすることのかすかな希望ではないだろうか、と潮木氏はセミナーを締めくくった。

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早い時期からいろいろな場所で告知したため、本セミナーには40名の聴衆が集い、ほぼ満席となった。その構成は多様で、一般の方から出版関係者、学部学生が来ていた。意外だったのだが、大学院生、とりわけ東京大学の院生は少なく、UTCP関係者(わずか3名)を含めて7-8名の参加にとどまった。当事者である大学院生やポストドクターの参加の低調さを目の当たりにして、あらためて、大学院や大学の問題のもっとも深刻な病を実感した夜だった。

(文責:西山雄二)

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