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時の彩り(つれづれ、草) 092

2010.01.14 小林康夫

北京の1日

というわけで10日から12日まで北京へ出張。前回、わたしが行ったのは確か2004年だったと思うので、それから5年あまりで、なんという変貌ぶり!空港から、あのオリンピック・スタジアムの横をとおって北京大まで。建物も走っている車もすっかり変わって驚きました。そして着いたところが、北大博雅国際会議中心という北京大の傘下にある国際センターなのですが、これが部屋数が300以上という「五つ星」クラスホテル。あとで聞いたら、トニー・ブレアとかキッシンジャーとか、ノーベル賞のル・クレジオまで泊まったという。部屋も広く、各部屋に机とコンピュータまでセットされている。プールやスパまでついている、こういう施設をもって北京大が国際交流をしている、という現実を日本のわれわれはもっと認識する必要がある。

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それはともかく、わたしは、またもやホテルに着いてもまだ原稿を書いているというぎりぎりの状態。なんとか終わりにできたのはよかったのだが、翌日、朝のセッション、副学長の林先生とともに東アジアの人文科学の国際連携についてのビジネストークのあとのわたしの基調講演、なんと書きすぎたせいで、ぜんぜん終わらない。いっしょに行った研究員の喬さんがあの難しい内容を猛烈なスピードの、しかし正確な中国語で翻訳してくれているのだが、なにしろ400字詰めで30枚以上も書いてしまったので、1時間経っても終わらず、とうとう最後の2ページは読まずしまい。

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やれやれ、みなさんの昼食(総長の接待用の素晴らしい豪奢な食堂でしたが)の時間を30分も奪ってしまった。これはもう「老人力」というか「老害」というか。みなさんもあきれただろうけど、しかしわたしとしては、今回のシンポジウムの主導者であるNYのZhang Xudong に対するわたしなりの応答。かれの専門でもあるベンヤミン、魯迅、それに、これはわたし流で、小林秀雄をアレンジして、その三点測量を通じた「批評」とはなにか、を論じたもの。ベンヤミンのところは、去年の夏以来、問題にしているかれの「ゲーテの親和力」における「表現なきもの」への問いを接木した。わたしにとってもこの数ヶ月の思考のひとつの暫定的な結論ではあった。

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その日の夜、北京家鴨の老舗でおいしい食事をいただいたその直後に、わたしの「弟」ということになっている北京大のDong Quianが登場。北京のいちばん新しいところを見せてあげる、と市内でいちばん高い高層ビルの階上にあるバーにつれていってくれた。その後、紫禁城近くのかれのスタジオに案内してくれて、北京の夜のツアー。零下10度という寒さではあったが、友情の熱さに感謝。翌日の朝は、一昨年に駒場にお招きした北京大の王守常先生が、前もってお願いしておいた書をもってホテルに訪ねてきてくださった。お願いしたもの以外に、わたしの還暦を祝った大きな書も贈ってくださった。その言葉は「仁者壽」!う~ん、わたしにいちばん欠けているものかなあ・・・仁ねえ。ありがたいギフトであった。

短かったけど、とても充実していた北京。「去年の雪、いま何処?」というのはわたしが論じた小林秀雄の「当麻」の最後に引用されている、もちろんヴィヨンの一句。北京の雪、すてきでした。

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