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【報告】UTCP Workshop “Sustainability and Ethics: Towards Establishment of New Metrics”

2009.12.07 石原孝二, 村松真理子, 中澤栄輔, 関谷翔

2009年11月10日(火曜日)17時、駒場キャンパス18号館コラボレーションルーム3には予想以上に多くの若い参加者が集まり、「サステナビリティー」とその共通の「メトリックス」を考えるワークショップが始まった。

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トリノ工科大学(Politecnico di Torino)とUTCPという組み合わせ。冒頭挨拶されたナルディ副学長のお話し通り、トリノ工科大はヨーロッパでトップクラスの工科系大学で、イタリア、ヨーロッパ、近年はアジアでも活躍するエンジニアを輩出している。工学系の「現実」を前提にすえたロジックと、哲学/人文科学の「現実」に疑問符をつける議論が、どのようにかみ合うか…

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そもそもどうしてこの二つの大学が出会い、このテーマを議論することになったかに大きく関わるのが、昨年日本ではじまり、今年トリノにひきつがれた「大学G8」と「持続可能性」をテーマとしたその宣言だった。この場に集まったトリノ側メンバーは、トリノでの宣言の作成に大いに関わったとのこと。その議論の前提に関するイントロダクションは、主任研究員のチフェッリ氏。

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チフェッリ氏のイントロダクションを受け、メイン・スピーカのロンバルディ准教授から、「持続可能性」の概念の抱える問題点と、共通の基盤たる「メトリックス」の構築の必要性についての発表があった。

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かれこれ35年間この言葉は語られ、多くの「指標」が環境、経済、教育、建築等々の分野で試みられてきた。ただし、共通の枠や統一的指標が確立されてはおらず、その基礎たる「倫理」は共有されていない...UTCP側パネラーの石原氏は、サステナビリティーとその「倫理」をめぐる言説の流れやロジックを再検討し、ロンバルディ氏の提題をひきついだが、結論としては共通の「倫理」の構築の不可能性を強調した。さらに関谷氏が、産業や環境の個々の分野において、そこにかかわるさまざまな組織や文化という具体的な観点から議論を重ね、コミュニケーションの道具としての指標を設定する重要性について、議論をひきついだ。

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ロンバルディ氏の技術的な論理を積み上げた議論が、哲学、倫理の観点から掘り下げられ、危うさを抱える前提の重要性がうきあがる。さらにその基礎の設定を放棄することを潔しとはせず、具体的な一つ一つの事象において、コミュニケーションの中で「指標」を築く重要性が語られたように思う。空間や時間のスパンの問題があろうとも、私たちの状況においてそれ自体が曖昧である「持続可能性」ということばの指し示す先にある危機の認識は、共有されているだろう。その上で、文化や状況の差異に由来する問題(国家、歴史認識)、危機自体の認識にも関わる状況へのアプローチあるいは場(工学、技術、哲学、倫理、政治、経済、市場等々)の違いが、その場に集まったそれぞれの分野の専門家たちの発言から浮かび上がったのではないか。トリノ大学政治学研究員のアンドルニーノ氏、イタリア銀行東京事務所長のジネーフラ氏、UTCP局員研究員のフルーマー氏、UTCP西山氏らの発言が重なるにつれ、問題の複雑さは、前提としての「政治」と視点の可能性にこそあることが明らかになり、共通の指標と方法は場の共有を重ねることでしか求められないことを感じさせた。

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一つの結論が立ち上がり得ないしめくくりとして、UTCPリーダーの小林康夫氏は、水俣の水の美しさとその汚染のもたらした悲惨さとを改めて喚起しつつ、我々の見えている「現実」の認識自体の危うさと、その転換とをはかろうとするREVOLUTIONこそが、おそらくこのような議論を重ねるためにPHILOSOPHYの担う課題であろうと結論づけた。SUSTAINABILITY- COMUNICATION- REVOLUTIONの提示するもの、それは確かな共通の足場すらない中 —ときには自らの足場すら切り崩しつつー、我々が議論の場を共有し、共通の方向性と、アプリオリではない、書き直されつづける「倫理」を模索し続ける必要性だろう。それは、「サステナビリテイ」という曖昧な言葉の指す先にあるたしかに進行中の危機を回避する責任を負いながら、世界と現実の認識にふみこむ開かれた理性を鍛えることにつながるだろう。

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村松真理子(UTCP事業推進担当者)

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