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【学会参加報告】 第32回日本神経科学大会

2009.10.05 筒井晴香

2009年9月16日‐18日の3日間、名古屋国際会議場にて第32回日本神経科学大会が開催された。

筆者(筒井晴香)は大会1日目に、水島希(東京大学大学院情報学環)と共同で"Neuroethics of Sex Differences: a Perspective from analyses of Popular Neuroscience in Japan (性差の脳神経倫理学――脳の性差をめぐる日本の通俗科学の分析を通して)"と題したポスター発表を行った。以下、その概要と得られた成果について簡単にご報告したい。

 脳神経倫理学において性や性差の問題に焦点を絞った研究は、世界的に見ても未だごく少数である。しかし、性差を扱う科学が社会とのかかわりにおいて慎重な扱いを要することは、進化心理学や遺伝学の例を考えても明らかである。近年のいわゆる「脳ブーム」の中でも、脳の性差は特に一般大衆の関心が高い話題であることを考えると、性差の脳科学の倫理的問題について考えることは喫緊の課題であるといえる。以上のような背景に基づき、今回の発表では、性差の脳科学の倫理学を立ち上げていくための端緒として、日本で近年出版された通俗科学本の言説分析を行い、性差についての通俗脳科学的言説の現状と問題点をまとめた。簡潔に述べると、性差を取り上げた通俗脳科学言説には、脳が人間の本質を決定づけるという「脳本質主義(neuro-essentialism)」的傾向に基づいた、性差の過度な強調・ステレオタイプ化がとりわけ顕著な特徴として見られる。

 今回、発表を行って非常に驚いたのは、予想以上に多くの方から関心を持っていただけたことである。性差に関する科学と社会とのかかわりというテーマ自体については、実は進化心理学の文脈を中心に、すでに多くの議論がなされている。しかし、別の分野の科学についてなされていた議論を脳科学の現状に応じた形で提示することは、現場の脳科学者の方々にとって、こちらが想像しているよりも大きな意義を持つのだということが、発表を通じて強く感じられた。

 性差の脳科学と社会との関係をめぐる問題は、決して新しいものではないかもしれない。だが、裏を返せばこの点は、問題の根強さと深刻さを表しているといえるだろう。そのような問題を現代の具体的な文脈に応じて明示化し、科学の枠組みを超えた議論の場を切り開いていくことは重要な仕事である。今回発表した研究はごく予備的なものに過ぎないが、今後さらに議論を深め、さまざまな場で発信していきたいと考えている。

筒井晴香(共同研究員)

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