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時の彩り(つれづれ、草) 065

2009.04.17 小林康夫

☆ 贈与

先週の土曜、UTCPはスターティング・イベントを行ったが、シンポジウムの前のPD/RAの会議の席で、われわれのこのサイトの説明をしたのがPD研究員の平倉さん。その話のなかで、このサイトこそが、ある意味ではUTCPというセンターの「実体」であり、そこでは全イベントの報告、そして出版物のPDFファイルが公開されていると指摘したあとで、これは「贈与」の原則なのだ、と。

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その後、この「贈与」という言葉の航跡がずっとわたしのなかで後をひいて、われわれ人文科学の思考のように、いかなる利益・権益にも結びつかない思考の無償の「贈与」という形を、なんと世界規模で実現できることこそ、こうしたサイトの深い意味なのではなないか、と考えていた。サイトは単に案内や報告という機能だけに還元されるのではない。もっと深く、われわれの思考がほんらい無名であり、我有=所有されるものではないことを技術的に実現する手段がようやく与えられたのだと考えるべきかもしれない、と。

実際、このサイトにアップしてあるわたしの欧文著作の第一章、"De l'ana-chronisme de la prière" は、最近では一ヶ月で59回もダウンロードされているという。これはびっくりの数字。世界のどこかで毎月これだけの人がわたしが書いたものを読んでくれているということに、本という形態とは別の新しい可能性が示唆されているように思う。

たぶんこのインターネットのテクノロジーは、未来の思考の形態をも根本的に変えてしまうのかもしれない。それは脅威でもあるが、驚異でもある。われわれの思考が「贈与」であること。そのことの測り知れない意味を考え続けている。

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