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【報告】第3回国際現象学会―哲学の新しい拠点としての香港

2008.12.23 村田純一

2008年12月15日から19日にかけて香港中文大学行われた「第3回国際現象学会」(OPO3)に参加してきました。以下ではごく簡単にその内容を報告しておきます。

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OPOとはOrganization of Phenomenological Organizationsの略で、世界に展開している現象学の活動拠点の間の交流を目指して、6年前に設立されたものである(現在では、170以上の組織が加盟しているといわれている)。6年前にはチェコのプラハ、3年前にはペルーのリマで行われた。このように世界の各地域をめぐりながら、現象学を中心とする哲学者の交流が推進されてきた。もともとは、Florida Atlantic University教授で、世界の現象学会のなかで様々な活動に関与してきたLester Embreeが構想したもので、当初は現象学の組織間の協力体制や交流を目指して形成されたのであるが、Embreeの緩やかな性格や参加者の意向などから、結局、個人でもかなり自由に参加できる国際的な現象学の祭典といった形に自然となってきたように見える。

今回の大会では、南北アメリカ、ヨーロッパ(東欧やロシアを含む)、オーストラリア、そしてアジアの各国から、66人の発表者が集まり、5日間にわたり熱心な議論が繰り広げられた。全体のタイトルは以下のとおりである。
World Conference of Phenomenology, Nature, Culture, and Existence
(In Celebration of the 60th Anniversary of the Department of Philosophy, CUHK(Chinese University of Hong Kong))
以上のように一応のタイトルは掲げられているが、今年の8月にソウルで行われた世界哲学会議の時と同じように、発表の内容は必ずしもそれにとらわれず、ほとんど自由に選ばれたもののようであった。わたしの発表も、メルロポンティの「眼と精神」を読解することを目的として「照明の現象学」と題したもので、必ずしも全体の課題に直接的に関連したものではなかった。

また今回から初めて、大学院生の発表の枠も設けられ、日本からも東大文学部の博士課程の院生が発表した。主な参加者には、Kah-kyung Cho(アメリカ・バッファロー大学)、Elmar Holenstein(スイス工科大学、現在は日本在住)、David Carr(アメリカ・エモリー大学)、Hans-Helmut Gander(ドイツ・フライブルグ大学)など著名な現象学者が多数参加していたが、アジアで開かれたということもあり、韓国、台湾、中国、香港などからの参加者が目立っていた。

国際会議の常で、今回もさまざまな情報交換や将来へ向けての連携の模索などが行われたが、今回はアジアで行われたこともあり、2年前にUTCPの主催で行われたPEACE(Phenomenology for East Asian Circle)に出席した参加者の多数の方々と再会し、来年のPEACEの計画(ソウルで行われる予定)などについても相談することができた。

具体的なプログラムは、OPO3のホームページが開設されているので、そちらをご覧いただくことにして(http://phil.arts.cuhk.edu.hk/~opo3/)、ここでは、ひとつだけ、この大会を主催した香港中文大学の哲学科の活動について報告しておきたい。

この大会の副題にも記されているように、香港中文大学の哲学科は60年前に設立されたもので、日本における各大学の哲学科の歴史と比べるなら、比較的新しいものといえる。しかも、その活動が世界に知られるようになったのは、10年前にこの哲学科に所属しているCheung Chan-fai(ハイデガーを中心とする研究者)、 Tze-wan Kwan(カントを中心とする研究者であるが現象学にも造詣が深い)、 Lau Kwok-ying(メルロポンティを中心とする現象学研究者)の3人が中心となって、国際的な現象学の会議を開催して以来である。それ以来、香港中文大学では、第1回のPEACE会議をはじめ、さまざまな国際会議を主催してきており、現在では、少なくとも現象学の世界では、香港はアジアで最も活発な国際的な活動拠点と見なされるようになった。わたしが香港中文大学を訪れたのは今回が3回目であったが、あらためてその熱意に打たれることになったし、また、日本から参加した研究者の多くは、最後のレセプションで垣間見た香港の持つエネルギーに度肝を抜かれ、感嘆の声をあげていた。

もちろん現象学研究者の数や、現象学会の規模などを考えれば、香港と日本とでは桁数が違うことには変わりはない。また、国際的な視野からすると、確かに日本の西欧哲学導入の長い歴史は尊重されており、さらに現在では、国際的に活躍する研究者が増えてきてはいることも間違いはない。しかしそれでも、香港(中文大学)のスピードとエネルギーと比較すると、日本の現在は「沈黙」の多数派といった印象を持たれても仕方がないように思われた(8月のソウルで開かれた世界哲学会議では、日本の研究者から、日本で同規模の会議を開催することのむずかしさを語る声を多く聞いたが、今回の国際現象学会でも、同じように、現在の日本で今回のような規模の会議を開くことは困難だという声を多数聞くことになった)。このような点から、あらためて日本の哲学の行方とアジアの哲学の行方について考えさせられる機会となった。

なお一つ付け加えておくなら、この会議の直前に、香港で、香港中文大学と教育学院に所属する二人の若い哲学研究者の努力によって、日本哲学を中心軸とする国際会議が開かれた。この会議に関してはすでに参加された中島隆博氏が報告を書かれている。中島氏は、そこで、「ボールはわたしたちに投げられているのだ」と書かれているが、たしかにUTCPのような組織の責任はますます重くなるように思われる。

(文責:村田純一)

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