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Flavor of Life―『蟹工船』ブック・フェア

2008.11.25 西山雄二, UTCP

2008年に入り、小林多喜二の『蟹工船』がとくに若者を中心にブームになっている。小林の没後75年の今年、60万部の売上を記録しており、SABU監督、松田龍平主演で映画化も決定した。現代の「ワーキングプア」と『蟹工船』の労働者の過酷な労働状況の類似性に共鳴する読者が多いのだという。

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来たる12月9日(火)17時から、UTCPでは、小林多喜二研究の第一人者・島村輝(女子美術大学)氏を迎えて、「日本思想セミナー:『蟹工船』再評価、その世界的動向――そして東大生はいかにこの作品を読んだか」を実施する(司会:高榮蘭 於:東京大学駒場キャンパス18号館4階コラボレーションルーム1)。

また、この催事と連動して、東大駒場生協書籍部では、『蟹工船』ブック・フェアが開催されている(本ブログ末尾に選書リストを掲載)。フェアでは『蟹工船』についての研究書のみならず、労働問題や貧困問題、若者論等、『蟹工船』ブームと関連する書籍が幅広く的確に選定されている。東大駒場生協に立ち寄った際には足を止めていただければ幸いである。フェア開催に尽力していただいた書籍担当の渡辺さんには深く感謝する次第である。

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世界恐慌が起こった1929年に発表された『蟹工船』は、海軍の保護のもとオホーツク海の蟹工船で過酷な労働を強いられた労働者たちが団結して立ち上がるまでを描いたプロレタリア文学の傑作である。この小品の頁をめくる読者を圧倒するのは、何よりも蟹工船での強烈な匂いの数々だ。

蟹の脳味噌や肉汁の臭気、ムッとする石炭の汚臭、何か果物でも腐ったような酸っぱい激臭、豚小屋そっくりのすぐに嘔吐しそうな異臭、何日もシャワーを浴びることのできない船員の体臭――労働者たちが就寝する悪臭芬芬の船倉は、「煙草の煙や人いきれで、空気が濁って、臭く、穴全体がそのまま『糞壺』」だった。実際、上品な格好をした活動写真家の一団が活動写真を撮影するために、また、駆逐艦から士官連が船長と贅沢な酒盛りをするために蟹工船に乗船したときに、彼らがまず発する言葉は「臭い、臭い!」である。

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こうした生々しい匂いのなかで、「手や足が大根のように冷えて、感覚なく身体についている」労働者たちは苦役を強いられる。だが、こうした生と労働と身体の匂いは彼らの過酷さを表象するだけではない。まさにこの匂いに否応なく曝されることによってこそ、労働者たちは活動写真家や士官連を「何か海でないもの」として肉感的に区別し、彼らの自己規定に連なる友‐敵の感覚的確信を抱き、ついには団結の力を生成させるのだ――「俺達には、俺達しか、味方が無えんだな。始めて分った。」

往々にして無臭が志向される現代社会のさまざまな場面において、深刻な困難や問題を解決するために、分断された個の連帯が模索されている。ささやかな私たちの連帯や団結、助け合いが可能となるためには、生と労働と身体のいかなる匂いに敏感になればよいのだろうか。

(文責:西山雄二)

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(新潮文庫版『蟹工船』と『マンガ蟹工船』〔東銀座出版社〕)

『蟹工船』ブック・フェア@東大駒場生協書籍部
(選定:渡辺由美)

・小林多喜二『蟹工船』(新潮文庫)
・小林多喜二『蟹工船』/解説:雨宮処凜、野崎六助(金曜日)
・『マンガ蟹工船』解説:島村輝(東銀座出版社)
・『小林多喜二生誕100年・没後70周年記念シンポジウム記録集』(東銀座出版社)
・『生誕100年記念小林多喜二国際シンポジウムPart2報告集』(東銀座出版社)
・『いま中国によみがえる小林多喜二の文学』(東銀座出版社)
・『国文学 解釈と鑑賞 別冊~「文学」としての小林多喜二』(至文堂)
・『小林多喜二と「蟹工船」』(河出書房新社)
・『私たちはいかに『蟹工船』を読んだか』(白樺文学館多喜二ライブラリー)
・『小林多喜二名作集 近代日本の貧困』(詳伝社新書)

・本田由紀『若者の労働と生活世界』(大月書店)
・入江公康『眠られぬ労働者たち』(青土社)
・杉田俊介『無能力批評』(大月書店)
・『POSSE』創刊号(NPO法人POSSE)〔12月発行予定の第2号は「蟹工船」特集〕
・黒井勇人『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』(新潮社)
・湯浅誠『反貧困』(岩波新書)
・堤未果『ルポ貧困大国アメリカ』(岩波新書)
・東海林智『貧困の現場』(毎日新聞社)
・『論争若者論』(文春新書)
・赤木智弘『若者を見殺しにする国』(双風舎)
・大澤真幸編『アキハバラ発』(岩波書店)
・『ロスジェネ』創刊号(かもがわ出版)
・雨宮処凜・萱野稔人『「生きづらさ」について』(光文社新書)
・松本哉・二木信『素人の乱』(河出書房新社)
・毛利嘉孝『はじめてのDiY』(ブルースインターアクションズ)

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