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報告 「世俗化・宗教・国家」セッション 10

2008.10.26 羽田正, 後藤絵美, 勝沼聡, 世俗化・宗教・国家

10月20日、「共生のための国際哲学特別研究VI」第十回セミナーが開かれた。

今回のセミナーはワークショップ「エジプトにおける世俗化と社会Secularization and Society in Egypt」として、発表者に勝沼聡氏(UTCP・特任研究員)、後藤絵美氏(UTCP・共同研究員)、コメンテーターにクラーク・B・ロンバルディ氏(米国ワシントン大学・準教授)を迎えて開催された。081020_Lombardi_Semi_02_02.jpg

 最初に勝沼氏により「イギリス占領下(1883-1903)エジプトにおける刑法と刑罰政策」のタイトルで発表が行なわれた。1883年エジプト政府はフランス刑法に基づいた刑法を制定したが、この時から1904年に新刑法が導入されるまで、エジプト政府がいかにしてこの刑法を当時のエジプトの社会状況に適合させようとしたかについては未だ未検証のままである。勝沼氏はイギリス占領下において創設された諮問機関である立法諮問議会の議事録を史料として用い、匪賊行為への対策強化、窃盗罪の厳罰化、監獄内における労務作業への囚人の動員や、彼らの社会からの隔離強化を目的とした監獄改革が行なわれたこと、これは監獄局の監察総監であったコールズCharles Colesにより主導されたことを指摘し、初期イギリス占領期におけるエジプトの刑法改革にイギリスが大きな影響を及ぼしていたことを指摘した。この報告に対しコメンテーターのロンバルディ氏からは、刑法改革におけるイギリスの意図およびエジプト占領政策との関係、またこうした刑法改革に対するエジプト社会からの反応について質問が寄せられた。
 次に後藤絵美氏により「『世俗』か『宗教』か?-現代エジプトにおけるイスラームとヴェールの関係」のタイトルで発表が行なわれた。ヴェールの着用がイスラームに根拠を持つものであるか否かは現代エジプトのみならず中東諸国、そしてフランスなどのイスラーム教徒が多く存在する国においても知識人の間で大きな議論が行なわれている。後藤氏はヴェール着用がイスラームの義務であるかをめぐって行なわれた雑誌上の議論を取り上げ、義務ではないと主張するアシュマウィーal-Ashmawiと、義務であると主張するタンタウィーTantawiが論拠としている史料および彼らの議論の形成過程に焦点をあて、両者ともにコーラン、ハディース、タフシール、法学書など、イスラーム法学において正統とされる史料に依拠して議論を組み立てていること、ただしその際の史料の選択には恣意性が見られることを明らかにした。そして「ヴェールなし=世俗」、「ヴェール=宗教」の二分法が不適切であると結論づけた上で、女性がヴェールを着用するか否かの決定に際してよりどころとする判断要因として社会状況、人間関係などの要因とは異なる何らかの要因があるのではないかと指摘した。この報告に対しロンバルディ氏からは、史料を精査した上で結論を導き出す後藤氏の研究手法に対して高い評価が与えられた上で、個々の知識人の言論の変化を時期を追って検討することの重要性、何をもってイスラーム法学の史料とするかという問題、誰がイスラーム法を解釈する資格を持ち、どのような手法で法解釈が行なわれているかについての問題が提起された。また、「イスラーム化」という言葉の定義についても議論がなされた。以上、第九回セミナーにおいて提議された問題がここでも多く議論され、話は尽きることがなく、本セミナーも大幅に時間を延長して行なわれ、これらの議論の多くは翌日開催された第七回イスラーム理解講座におけるロンバルディ氏の講演にも持ち越されることとなった。

報告者:太田啓子

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