中期教育プログラム「脳科学と倫理」セミナー(4)第7回報告
中期教育プログラム「脳科学と倫理」セミナー4では "Decision Making and Free Will: A Neuroscience Perspective (Kelly Burns and Antoine Bechara [2007], Behavioral Sciences and the Law, 25: 263-280.)" を講読しました。今回はセッション7の報告です.
Neural Mechanisms of Willpower
【本文要約】
扁桃体や前頭前野を介してひとたびソマッティックな状態が誘発されると、それに続いて多数のチャンネル(たとえば、脊髄や迷走神経)により、身体情報が中枢神経系に伝えられる。そして、行動と認知に対してバイアスをかけるソマティックな状態の作用は、少なくともその一部分が、ドーパミン(DA)やセロトニン(5-HT)、ノルアドレナリン(NA)やアセチルコリン(Ach)のような神経伝達物質の放出によって仲介されていることが分かっている。つまり、(1)身体情報を伝える脊髄や迷走神経のニューロンとシナプス結合していて、ドーパミンやセロトニンを分泌するニューロンは、前者のニューロンの影響で伝達物質の放出パターンを変え、そして(2)この放出パターンの変化が、今度は前頭前野などのニューロン活動に影響を与えることになる。このような経路で、ソマティックな状態は熟慮的システム内部の行動と認知に従事するニューロンのシナプス活動を調節する。これは、意思決定にとって重要なさまざまな神経領域の活動に対してソマッティック状態が影響を与える一つのやり方である。
幼少の頃は、熟慮的システムはあまり発達しておらず、意志力は比較的弱く、行動は衝動的システムに支配されることが多い。すなわち、子どもたちは、将来についてはそれほど考えずに、今まさにやりたいと思うことをやりがちである。だが、子どもたちは学習を通じて、社会的ルールと衝突したり、否定的な結果を招いたりする欲求や行動を抑制するようになる。これが意志力の発達を示す最初の兆候であり、熟慮的システムが衝動的システムを制御し始める一例である。長期の結果に従って選択を行い、現在の欲求に抵抗できるためには、正常な発達が必要であり、また、長期の結果の価値を信号として伝える熟慮的システムによってソマティックな状態が正常に誘発されることが必要である。これらのソマティックな状態が失われるなら、熟慮的システムは衝動的システムを制御できなくなり、意志力は崩壊する。実際、このことがまさに、前頭前腹内側部が損傷を受けたときに起きていることなのである。
【講読に際して議論された点】
報告者: 西堤優(UTCP共同研究員)
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