中期教育プログラム「脳科学と倫理」セミナー(4)第5回報告
中期教育プログラム「脳科学と倫理」セミナー4では "Decision Making and Free Will: A Neuroscience Perspective (Kelly Burns and Antoine Bechara [2007], Behavioral Sciences and the Law, 25: 263-280.)" を講読しました。今回はセッション5の報告です.
Non-conscious Operation of Somatic States
【本文要約】
意思決定を熟考している間、ソマティックな状態が、一次的誘発因子や二次的誘発因子によって引き起こされる。そして、たとえ意識には上らないとしても、ソマティックな状態が現前していること、また、ソマティック状態が意思決定や行動に影響を与えていることを示した実験例として、ここではIowa Gambling Task が取り上げられている。
被験者が正しい選択を行うのは、ゲームの特徴をはっきりと理解して、選択に関連した知識を推理した後なのか、それともそのような理解や推理以前の段階なのか。Iowa Gambling Taskでは、この点を明確にするために、健常者10人と、前頭前・腹内側部を両側性に損傷した患者6人の、課題遂行時における振る舞いと皮膚伝導反応(SCRs)の強度変化が記録された。
実験の結果、ゲームの特徴を明確に理解して、選択に関連した知識を用いた意識的な推論を行うよりも前に、健常者たちは正しい選択をしていること、また、SCRsの強度変化がまったく見られなかった患者たちの場合は、たとえゲームの特徴を十分に理解した段階でも、不適切な行動を選択してしまうことが明らかになった。これは、前頭前・腹内側部の損傷が、現在の選択に関係した先行経験へのアクセスを不可能にしていると考えることができる結果であった。
脳幹におけるソマティック状態は、無意識的な知識を用いて暗黙的に働き、脳のほかの領域での意識的な知識を使った自覚的な意思決定に対して、バイアスをかけている。つまり、正常な選択過程においては、意識的な知識と無意識的な知識の両方が貢献しているが、ソマティックな状態の生成が、意識的な過程からのインプットなしに、それに先だって我々を有利な行動へと導くことは、いわゆる自由意志による行為もあらかじめ無意識的な過程によって決定されているのではないかと思わせる。
【講読に際して議論された点】
報告者: 西堤優(UTCP共同研究員)
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