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中期教育プログラム「脳科学と倫理」セミナー(4)第4回報告

2008.09.08 └セミナー4:ベシャラを読む, 西堤優, 脳科学と倫理

中期教育プログラム「脳科学と倫理」セミナー4では "Decision Making and Free Will: A Neuroscience Perspective (Kelly Burns and Antoine Bechara [2007], Behavioral Sciences and the Law, 25: 263-280.)" を講読しました。今回はセッション4の報告です.

The Somatic Marker Framework

【本文要約】
  一次的誘発因子によってソマティックな状態を誘発するために必要な神経基盤の中でも、扁桃体は決定的に重要な神経基盤である。扁桃体は、一次的誘発因子の諸特徴を、その因子と連合した身体状態と結びつけるのである。このソマティックな状態は、視床下部と脳幹の自律神経核のようなエフェクター・ストラクチャ[心筋、腺、腸管などの自律神経奏効器官の神経末端部に局在する効果細胞(effector cell)を興奮・抑制することによって奏効器官の状態・機能に変化をもたらす脳構造]を介して喚起されるが、これらは、顔の表情や特異な接近・退避行動に変化をもたらす腹側線条体、中脳水道周囲灰白質(PAG)、そして脳幹のその他の神経核のようなさらに別のエフェクター・ストラクチャと協調して、体内環境や内臓機構に変化をもたらす。扁桃体は進化の上で最も古い脳構造の一つであり、内側側頭葉の深部に位置している。一次的誘発因子によるソマティックな状態が誘発されるとただちに、このソマティックな状態からの信号は、脳幹や前脳へ中継される。活性化されたソマティックな状態からの信号は、脳幹(進化の上で最も古い脳領域)や皮質(進化の上でより新しい脳領域)においてソマティックな状態を表すニューロン活性化パターンの展開の原因となる。脳幹レベルでのこれらのパターンの知覚は概して無意識的であるが、しかし皮質レベルでは、この知覚は主観的な感情という形で意識にのぼることもある。

  ソマティックな状態が一次的誘発因子によって誘発され、そして少なくとも一度経験された後では、このソマティックな状態を表すパターンが形成されている。その後で特異な一次的誘発因子の記憶を呼び起こす刺激が現前すれば、それは今度は二次的誘発因子として作用するだろう。二次的誘発因子は、特異な一次的誘発因子に属すソマティックな状態を表すパターンを再活性化すると推定されている。たとえば、薬物経験の想起や想像は、実際の以前の薬物との出会いに属すソマティックな状態を表すパターンを再活性化するのである。しかしながら、薬物使用の想起や想像(二次的誘発因子)によって生じるソマティックな状態は、実際の薬物使用(一次的誘発因子)によって誘発されるソマティックな状態よりも弱いのが普通である。前頭前野は進化の上で最新の脳構造であると同時に、個人の一生を通じて十分に発達するのが最も遅い脳構造のひとつでもある。

【講読に際して議論された点】

  • 背側(dorsal)や腹側(ventral)、内側(medial)や外側(lateral)といった脳の様々な部位の位置関係を表す用語の説明、またニューロンの細胞構造および機能と、脳の基本レイアウトに関して説明がおこなわれた。

  • 右利きの人は98%以上が左脳に言語野があり、左利きの人では7割は左脳に、2割は右脳に、残り1割は両方に言語野があるという話題に対して受講者の反応があった。

  • 脳活動と主観的な意識をめぐる哲学者の主張が話題になり、D. Chalmersの意識のハードプロブレムにまで話しが及んだ。
  • 報告者: 西堤優(UTCP共同研究員)

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