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【UTCP Juventus】吉田敬

2008.08.04 吉田敬, UTCP Juventus

 UTCP若手研究者研究プロフィール紹介の二回目は、特任研究員の吉田敬(科学哲学専攻)が担当します。

 特任研究員の吉田です。プロフィール紹介ということですので、簡単に経歴から説明したいと思います。国際基督教大学卒業後、上智大学大学院に進み、カナダ・ヨーク大学大学院で博士号取得後、UTCPで特任研究員としてお世話になっています。上智大学大学院から哲学を専攻するようになり、科学哲学、とりわけカール・ポパーの批判的合理主義を研究してきました。博士前期課程修了後すぐに、ポパーの弟子である、イアン・ジャーヴィージャグディッシュ・ハティアンガディが在籍するヨーク大学に留学し、社会科学の哲学を学んできました。ヨーク大学では2005年に、ジャーヴィーを指導教員として、博士論文、Towards a Rational Philosophy of the Social Sciences: Interpretivism and the Rationality of Other Culturesを提出しました。

 私の現在の研究領域は大きく分けて、(1)科学哲学、(2)社会科学の哲学、(3)脳神経倫理学と神経経済学の哲学、の三つです。まず、第一の科学哲学については、ポパーの批判的合理主義に関する論文をいくつか書いてきました。また、現在は、科学と社会との関係について、科学哲学がかつて持っていた規範的な役割を批判的合理主義の観点から、どのように回復できるのかということに関心があります。これは1970年代以降の科学哲学が記述的になったり、あるいはテクニカルな問題を扱うことに傾斜してきたということと関連があり、その点では、スティーヴ・フラーのような社会認識論者と、問題意識を共有していると言えます。この問題について、活字になっているものはまだありませんが、2005年の日本科学哲学会において、ジョージ・ライシュやフィリップ・ミラウスキーの冷戦期の科学哲学に関する研究について、発表しました。

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 第二の社会科学の哲学については、既に日本科学哲学会ニューズレター私自身のウェブサイトに紹介記事を書いたことがありますので、詳しい説明はそちらにゆずりますが、カナダ留学以来、研究の中心となっています。前述の博士論文では、社会科学の哲学における合理性問題を扱いました。合理性問題というのは、1950年から60年代にかけて、エドワード・エヴァンズ=プリチャードの人類学方法論に対する、ピーター・ウィンチの批判を発端として、英語圏の社会科学の哲学において、繰り返し問われてきたもので、どのように社会科学者は合理性概念の下で異文化、あるいはその側面を記述、そして説明できるのか、またすべきなのかという問題です。博士論文では、五人の論者――ピーター・ウィンチ、チャールズ・テイラー、クリフォード・ギアツ、マーシャル・サーリンズ、そしてガナナス・オベイエセカラ――の合理性問題への回答を吟味し、どの論者も説得力ある回答を提示していないと論じました。その研究成果の一部は、2002年にウィーンで開催された、ポパー生誕百周年記念学会の論文集、Karl Popper: A Centenary Assessment (Ashgate, 2006)や国際学術誌、Philosophy of the Social Sciences (Vol. 37, No. 3, September 2007)に掲載されました。

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 UTCPに来て研究を始めたのが、第三の脳神経倫理学と神経経済学の哲学です。私が属する中期教育プログラム「脳科学と倫理」では、脳神経倫理学に関する研究が様々な視点から行われていますが、私は利他行動の神経経済学を中心に研究しています。利他行動については、既に進化生物学において、研究の蓄積があるため、そこから得られる知見と神経科学上の知見がどのように関係しているのかを追求していくこと、また、そうした知見が人間の社会行動にとって、どのような意味を持つのかを問うことが重要になってくると思います。利他行動の神経経済学については、今年二月にメッツィンガーを招聘した際、発表を行いましたが、現在はそれを元に、海外での発表、そして国際学術誌への掲載を目指して、鋭意執筆中です。

 以上が私の研究プロフィールですが、研究の中心にあるのは、科学と社会です。「科学と社会」というと、科学社会学やSTSなどを連想される方がいらっしゃるかもしれませんが、むしろ私が関心があるのは、科学や社会をどのように哲学的に語ることができるのか、そしてその哲学自体は社会とどのような関係にあるのかということです。このような問題意識のもと、UTCPでも研究を進めていきたいと考えています。

吉田敬

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