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【UTCP Juventus】 喬志航

2008.08.26 喬志航, UTCP Juventus

私は中国近現代思想の研究を主として行っています。近現代の中国知識人の思想的営為を、政治的権力関係などの具体的な歴史状況の中に置き直して考察し、その思想的営為が何によって可能になったかというその存在可能性の諸条件を明らかにし、さらに、そのような思想的営為が持つ実践的意味を探求することです。

現在までの研究では、主に近代中国におけるいわゆる人文学の発展に巨大な足跡を残した王国維の「哲学」と「歴史学」、そして「新史学」と呼ばれる中国の近代的な歴史学を対象に、そこで展開された多様な言説がそれぞれ中国の近代化過程といかなる関係にあるかを検討する作業に取り組んできました。

1)王国維の学問的生涯は、通説に従うなら、「哲学」と「文学」と「歴史学」の三期に分けられます。日本に留学してドイツ哲学を学び哲学研究に勤しんだ時期、そして1907年に「哲学に疲れた」ことを告白して文学研究に打ち込んだ時期、さらに辛亥革命後の日本滞在を契機として歴史学研究に専念して多くの業績を挙げた時期です。私はその「哲学」と「歴史学」に焦点を絞り、詳細な分析を行い、その上でそれらの思想史的な位置づけを試みました。そしてこうした作業を通して、「近代」そのものによって深く支配されている王国維研究の歴史を明らかにしながら、王国維の学問研究を「近代」による支配とそれに対する抵抗という複雑な相互作用の中において位置付けなおそうとしました。

2)1902年、日本に亡命した梁啓超が「新史学」という文章を書き、「史界革命」を大いに唱えることによって、「新史学」は中国の舞台に登場してきたのです。それ以後、中国近代の歴史学を「新史学」と見るのは中国歴史学史における定説です。そこで私は近代中国のそれぞれの時期において「新史学」の代表的存在であった三人の歴史家、すなわち、梁啓超と胡適と郭沫若をそれぞれ取り上げ、彼らを一つの相互関係性の中に復元しながらその学問の特色を明らかにし、さらにそれを通して、「新史学」が一方で西欧的で近代的な学問として練成され推進されながらも、同時に民族の解放および発展というナショナリズムの課題と密接に結びついて形成され展開されてきたことを明示しました。私は「新史学」の問題に取り組む際に、彼らの言説を細大漏らさず明確に説明し尽くすことより、むしろそれが近代といかなる関係にあるかを検討することによって、「新史学」を思想史の課題と見なしたのです。

以上の研究はいずれも具体的に近現代の中国知識人の思想的営為を取り上げて検討し、それを「近代」という疑問符付きの概念との関連において再吟味し、彼らの思想的営為の思想史的な意味と現代的な可能性とを究明したものです。今後は、彼らによって試みられた多様で創造的な言説をさらに詳細に究明するとともに、文学や仏教などを視野に収めつつ、継続的に検討を加えていこうと思います。

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