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【UTCP on the Road】 開かれて繋がる(郷原佳以)

2008.03.17 郷原佳以, UTCP on the Road

2008年度に就職が決まったUTCP若手研究員のみなさんに、「わたしとUTCP」について語ってもらうという新しいコーナーです。題して「UTCP on the Road」。第一弾は、郷原佳以さん(フランス文学)。

* * *

一昨日、来月に迫った就職に備えて勤務先の大学に近いところに引っ越してきた。できるだけ早く環境を整えて新生活へ滑り出したいところだが、段ボール開梱作業を半ばにしたままパソコンしか置いていない殺風景な机に向かい、しばし「わたしとUTCP」について考えてみる。「自分の研究にとって、UTCPという場所がどういう場所であったか」を書くようにというのだ。

「自分の研究にとって」というところでまず考え込んでしまう。筆者はフランスの文芸批評家・作家モーリス・ブランショの著作を通して、文学をいかに開くか、あるいは、文学はいかに開いているのか、という問いについて取り組むことを自分の研究課題としている。しかし文学研究という枠組みから見た場合、少なくとも共同研究員をさせていただいたこの半年間、「共生のための国際哲学教育研究センター」(UTCP)の目まぐるしい活動のうちで自分の専門領域に直接関わってくるものはほとんどなかった、というのが正直なところである。今期のUTCPは、専門領域の近い者同士での研究会とは異なる。しかしまた、「専門領域」とは角度の異なる切り口によって、UTCPが自分に深く関わってきていたのも事実である。UTCPは、専門外の講演をカルチャーセンター的に楽しむ、といった気楽な場ではない。そのつど召喚され問い直されるのは、やはりあくまで「研究者」としての自分である。筆者にとってその場は、ある別の「開き方」を示唆してくれる場としてあった。

「別の」、というのも先述のように筆者は、文学をいかに開くか、ということを研究課題にしているからである。「開く」方向にはいろいろあるだろうが、筆者の場合、いまのところ、他の芸術ジャンル、あるいはむしろ、他の芸術ジャンルに親和的とみなされる感覚や媒体への「開き」のことを考えている。博士論文では文学の「イメージ」という問いを設定した。イメージの芸術といえばまず何より映画であり、また絵画であるけれども、文学はどうなのだろう。イメージをもたらすのか、あるいはもたらさないのか、もたらすとすればそれはどのようなイメージなのか、等々の疑問が沸いたからである。このような疑問の背景には、詩人としての自負と感嘆とをもって音楽について、絵画について、そしてバレエや演劇について語ったマラルメがたとえば念頭にある。詩人の想像のなかでは、あらゆる芸術を凌駕する、というのではなく、あらゆる芸術に通底する、あるいはむしろ、こういってよければ通底性そのものであるという意味での総合芸術としての「文学」が息づいていたのではないか、という気がする。その通底性そのもの――可能性の条件とか超越論的なものとかいってもよいのだが――に興味がある。つまり、開かれることで繋がること、そこに、終焉(をめぐる言説)の後の芸術の未来が見出せるように思うからだ。

共同研究員という自由な立場から好き勝手に参加していただけの筆者には、UTCPの全容を知る由もないが、それでもつねづね、UTCPの活動は、多岐に渡りながらもつねに何らかの危機意識に貫かれていると感じていた。それはイスラエル/パレスチナ問題であったり、地球環境の問題であったり、教育の問題であったりとさまざまだが、いずれも実に深刻で、緊急といってよい危機ばかりだ。それらの危機へ立ち向かうための方途を、やや鼻白む言葉ではあるが、UTCPでは「共生」と呼んだのだろう。UTCPが示唆してくれたのは、現代において人文学の研究者、そして大学人であるということがいかに否応なしに危機的状況と関わらざるをえないかということであり、そしてそれに対して研究者としての自分がいかにして専門領域の外に開かれ、そして繋がったらよいのかということであった。筆者が参加したもっとも大きなUTCP企画は、今年1月のパリでのフォーラム「哲学と教育」であったが、その報告にも書いたように、自分が専門領域から「哲学と教育」というアクチュアルな問題へと予想もしていなかった仕方で引き出されていったのは、我ながら何とも不可思議な経験であった。この経験は確実に今後、教員として働くうえで活きてくることだろう。

博士論文を終えてから就職するまでというきわめて重要な時期にUTCPに参加できたことをとても幸運に思います。UTCPメンバーの皆さん、とりわけ小林先生、事務局の立石さん、そして西山さん、中澤さん、平倉さん、井戸さん、デンニッツァさん、喬志航さん、どうもありがとうございました。

郷原佳以

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