中期教育プログラム「脳科学と倫理」セミナー(2)第6回報告
中期教育プログラム「脳科学と倫理」の進行状況を報告します.
セミナー (2) 「ガザニガ 『脳の中の倫理』 を読む」
第5章 「脳を薬で賢くする」.
【報告】串田純一さん 若手研究員
本文要約
今回は、前回に引き続いて脳の機能の薬理的強化の問題を、特に記憶力と知能に関して扱う。先ず、記憶力の強化に関しては、CREBと呼ばれるニューロン結合に関わる物質の活性化を中心に、動物実験で有効性が見出された物質がいくつか存在し、その商品化が進行中である。またドネペジルはヒトでの有効性が実験的に確かめられた。しかし、記憶力の調和を欠いた強化は、必ずしも望ましいとは限らない。私たちは、むしろ少なからぬ物事を忘れたがるものであり、また忘れる必要があるはずである。嫌な出来事をいつまでも覚えておりそれを頻繁に思い出すことは、苦痛以外の何ものでもないだろう。私たちの脳は、既に諸能力が平衡状態で安定しているのかもしれないのだ。
知能に関しては、現在、知能には種々の検査で広く検出できる「一般因子」があると考えられており、そしてこれは遺伝に大きく左右されるらしい。最近は、先ず大量のデータの統計的処理により知能に関わる脳の部位をマップし、続いてその部位を形成させる遺伝子を特定することで、知能に影響する遺伝子を特定するという試み(遺伝学的脳マッピング)が始まっている。その結果、脳の形質の遺伝と知能の遺伝とは強く相関しているということがわかって来た(ただし、その操作可能性に関しては何も言われていない。道のりは遠いのであろう:報告者)。
ところで著者は、「認知能力を高める薬は必ず開発され、使用され、濫用されるだろう」と言いつつ、「私の予想では、正常な脳を持つ大人が記憶略増強剤を使ったり、理論面ではあまり確かとは言いがたい知能や認知能力の増強剤を使ったりすることはないだろう」とも言っている。これらを字義通りに細かく解釈すると、著者の考えはこうなると思われる。
(1)「知能や認知能力一般から区別された記憶力のみの増強はほとんどなされないだろう。
(2)理論的な確証があるならば知能や認知能力一般の増強剤は使用されることだろう。
講読に際して議論された論点
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【レポート】ガザニガ 『脳の中の倫理』 第4章 「脳を鍛える」 PDF (118KB)