【報告】 海と旅―文明の出会いと共生
11月1日(木)東京大学駒場キャンパス学際交流ホールにて、50名ほどの熱心な参加者たちを前に、「旅」「海」「共生」の文学をめぐり、フィレンツェ大学からお迎えしたアデーレ・デイ氏、リータ・グエリッキオ氏と、本学の宮下志朗教授による講演会が開催されました。
モデレーター高田康成氏の指摘や、小林康夫氏の質問からもはっきりうかびあがったのは、空間と歴史をめぐる「旅」の記録と「文学」の双方が、古代・中世から21世紀まで連綿と、我々の場を照らし出し、「書くこと」自体を相対化してきたこと。オデユセウス=ウリッセの旅に典型的なように、歴史的状況との関わりの中で、旅立つ者は「他者」と「深淵」に対面し、旅人—作者の空間的・時間的移動とその視線の意味が「テクスト」を媒介に問い直され続ける...その「深淵」にこそ、21世紀の「共生」の可能性がさぐられるべきなのかもしれません。アウシュビッツで人類史の深淵を目にしたイタリアの作家プリモ・レーヴィが、ダンテ描くウリッセが「知」と「徳」をめざし破滅にいたる旅路の記憶を「詩」のことばとして呼び覚ましたことを、ここで我々は思い出すべきかもしれません。
現代詩までつづく「難破」のモチーフや、イタリア・フランス双方の16世紀の世俗的旅行記の再評価など、いくつもの刺激的「航路」が示され、「文学」の枠自体の広がりへと導いてくれそうな「海図」がコマバに広げられた午後でした。
(11月3日 村松真理子記)