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梶谷真司 邂逅の記録133 哲学対話カードゲームで互いの価値観と向き合う

2025.12.29 梶谷真司

 2025年12月6日、LIFE COMPASSという「哲学対話カードゲーム」のワークショップを行った。イベントではまず、カードの開発者に至る経緯を安部満さんからお話しいただいた。

 安部さんは、千葉県館山市の介護施設で看護師として働いている。他にも、全国高齢者施設看護師会管理者、認定医療コーディネーターもしつつ、講師としても活躍している。さらに、メンタリスト(!)でもあると言う。このように安部さんは、いろんな顔をもっている。その彼が「人生の大半は、じいちゃんばあちゃんに教わった」と言うほど、高齢者から多くを学んだという。
 とくに人とのつながりが生活の質を大きく変えること、年とともにいろんなことができなくなるなかでも、できることを増やしたり維持したりしようと努力すること、お互いできないことを補って助け合うことは、高齢者だからこそ意義深い。不自由に見えても、「なんとかなる」で生きていく、そんな姿に安部さんは感化されたという。そうした体験から、安部さんは人生と向き合う哲学対話ゲームを考案し、クラウドファンディングで協力を呼びかけみごと製品化を果たした。今回は、言わばその完成記念ワークショップであった。

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 さて、後半は実際にカードを使って対話をした。まず、4人ずつのグループに分かれ、その一人が司会役になり、約束カードを全員に1枚ずつ配る。そこには、「何を言ってもいい」「人の言うことにして否定的な態度をとらない」「発言せず、ただ聞いているだけでいい」「お互いに問いかけるようにする」「知識ではなく、自身の経験に即して話す」「話がまとまらなくてもいい」「意見が変わってもいい」「分からなくなってもいい」という哲学対話のルールが書かれている。これがこの後の対話の心得である。

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 続いて、選択カードを一人5枚ずつ配る。この種のカードは、全部で60枚あり、前進、経験、記憶、自由、発見、勉強、失敗、平和、感謝、変化、責任、自立、お金、やりがい、バランス、家族、友情、達成感、充実感、成長、運命、懐かしさ、楽しさ、やさしさ、助け合い、静けさ、謙虚さ、豊かさ、自分らしさ、包容力、想像力と言った言葉が書かれている。
 そのあと、司会者が質問カードを1枚ひいて、表向きに置く。質問カードには、どんな時に「自分の成長」を実感しますか? 「学校・仕事」とはあなたにとってどんな意味を持っていますか? 「死」と向き合うことで、今をどう生きたいですか? あなたの人生で「挑戦してよかった」と思うことは何ですか? 子どもの頃の「夢」と、今の共通点はありますか? 「お金」「幸せ」はどのように関係していると思いますか? といった質問が書かれていて、このカードは全部で30枚ある(つまり30の質問がある)。
 各プレイヤーは手持ちの選択カード5枚の中から、その質問にしっくりくると思うものを1枚選ぶ。もししっくりくるものがなかったら、「交換」と言って、最大5枚まで手札を選択カードの山の札と交換できる(交換は2回まで)。そしてカードが決まったら、各自が手札5枚をすべて表向きにして置く。これで準備完了となる。
 司会者は選んだ質問カードの質問を読み上げ、みんなでいっせいに選んだカードを指さす。まず司会者が「なぜそのカードを選んだのか」を話す。他の人は、その話に対して自由に問いかける。それが終わったら、左隣の人が同じように自分が選んだカードについてなぜ選んだか説明し、他の人が質問する。すべてのプレイヤーについて同様に行う。一巡したら、最初の司会者の左隣の人が司会者をして、同じようにもう一ラウンド行う。2ラウンドやった後、グループを変えてもう一度同じことを行った。

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 このLIFE COMPASSは、選択カードの言葉も、質問カードもよく考えられていて、それを使っておしゃべりしているだけで、おのずとその人の人生や価値観が見えてくる。同時に、自分自身の人生を振り返り、自分があることについてどう考えているのか、何を大事にしているのかあらためて気づく。初めて話す人とでも、カードのおかげで自然に話が弾む。
 哲学対話は、より多くの人(10~15人)の話を聞き、じっくり考えることができる。しかし、やはり手を挙げて話すのは、ハードルが高い。手を挙げる決断と、何を話すのか話題を選ぶ決断が必要になる。このことは、それを乗り越えて自ら話すことの意義もあるが、やはり哲学対話のデメリットでもあると、常々思ってきた。しかしこのカードゲームは、そうした負担を軽減してくれる。順番が機械的に回ってくるので、言わばいい意味で“強制的に”話さざるをえない。したがって自分で決断する必要がなく、またカードに書かれているテーマや質問のおかげで、話題を自分で考える必要もない。その点で、いわゆる哲学対話に慣れていない人、人前で話すのが苦手な人でも参加しやすい。それでいて、哲学対話と同じように、お互いの価値観や自分の人生を振り返ることができる。
 今回、ワークショップを通して、このカードゲームの良さが実感できた。学校や高齢者施設のようなところでも使えるし、家族でも遊べそうだ。人生観や価値観というのは、親しい間柄やいつも一緒にいる関係でも、意外に話さないものだ。それが無理なくできる場をLIFE COMPASSは作ってくれる。
 さて、最初の自己紹介で安部さんは、最後に安部さんは、メンタリストとしての腕前を見せてくれた。手始めに、 予言の封筒を取り出し、参加者に4枚のトランプのカードを自由に選んでもらったが、そのカードがなんと予言の封筒に書かれていたカード同じだった!  さらにビンゴゲームの図をホワイトボードに書き出し3人に好きな数字を選んで言ってもらい、安部さんが服を脱ぐと、合計の数字が安部さんのTシャツに書いてあった! これには参加者みんなが驚いていた。
 安部さんは、エンターテイナーでもあることがよく分かった。だからこそ対話もカードゲームで楽しむというアイデアを思い付いたのであろう。彼の芸と共に、LIFE COMPASSが全国に広がることを願っている。

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