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梶谷真司 邂逅の記録130 音と言葉と体のコンチェルト

2024.11.21 梶谷真司, 山田理絵

 井川丹(いかわ・あかし)さんとの出会いは2021年8月に東京都美術館で行われたTURNフェス6の会場だった。TURNとは、障害の有無、世代、性、国籍など、背景や境遇の異なる人たちが出会うことで起こる相互作用を、アートを通して行うプロジェクトである。私は2019年、第8回TURNミーティングに、ライラ・カセムさん(現在UTCPのメンバーで、当時TURNプロジェクトデザイナー)に誘われて参加した。
 https://turn-project.com/timeline/diary/5227/

 その後も、TURNにはいろいろと関わらせていただいたが、2021年、コロナ明けに行われたTURNフェス6では、目の見えない人のための実験的な展示を10人ほどのメンバーで行った。そのとき、他の展示も見て回っていた時に出会ったのが、井川さんのTURN NOTESというインスタレーションであった。TURN Noteという冊子に収められた、プロジェクトの参加者の言葉が書かれたカードを壁に並べ、その言葉を朗読したり、劇のように発話したり、メロディーに乗せて歌ったりする声が四方から空間に身を浸す、不思議な体験だった。
 https://turn-project.com/timeline/event/14144/
 そこにいた井川さんと話をして、その不思議な佇まいに魅了され、いつかお招きしたいと思っていたが、結局3年が過ぎてしまった。今年の8月にあったTURN関連のイベントで井川さんと再会し、今回のイベントをこちらから提案した。一度打ち合わせでUTCPのオフィスまで来ていただいて、とにかく井川さんのやりたいようにしてくださいと頼み、必要な機材等あったら購入しますと伝えておいた。
 さて、井川さんから購入希望の物品として送られてきたリストは、マッキー30本、リボン紐2巻セット、カラーの画用紙30色60枚、マスキングテープ白黒2巻ずつ、養生用テープ、卓上の小さなゴミ袋、ウェットティッシュ、ゴミ袋45L30枚、クレパス16色5セット、ウッドボード30枚、ラベルシート20枚、クッション封筒50枚、卓上ホルダースタンド10脚であった。

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 ??? 何をするんだろう? 井川さんから説明は聞くのだが、一向にイメージできない。彼は仕事から自宅に戻ってから、ワークショップのためのキットのセットを一人分ずつ用意して事前にオフィス宛てに送るという。果たして前日、段ボール2箱が届いた。
 当日、具体的に会場の準備をして、機材等を見ながら説明を受けるが、やはりよく分からない。よく分からないままイベント開始。そんなイベントだったが、20人以上の人が参加してくれた。
 まずは井川さんが自己紹介を兼ねて、ご自身の活動についてお話になった――東京藝術大学音楽学部作曲科卒業し、シエナ・ウインド・オーケストラという楽団で、ライブラリアン(楽譜の準備・管理などの仕事をする人)としてフルタイムで働いている。自分のアート活動は、休日など仕事以外の日に行っているという。

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 「人の声」を創作の中心に据え、演奏会用の作品やサウンドインスタレーションの制作を行い、美術家、建築家、ダンサー、映像作家等との共同で製作やパフォーマンスを行っている。近年はアートプロジェクトへの参加や、市民参加型ワークショップ、こども創作教室のプログラムを行い、音を介した表現/コミュニケーションを拡張させ、居合わせた者が多様な身の置き方のできる「場」作りを探求している、とのこと。
 さらに活動として、私と出会ったTURNフェスのインスタレーションと、八戸美術館の「美しいHUG!」に出店した「あわいの声 ー《虹の上をとぶ船 総集編Ⅰ・Ⅱ》との対話」についてお話しくださった。
 https://utsukushii-hug.jp/exhibition/ikawa_akashi/
 その後いよいよワークショップに入った。一人一人に渡されたクッション封筒に入れたセットの中から、大きなビニール袋(ゴミ袋)を取り出す。それと戯れながら、空気を中に入れ、口を縛って大きな風船を作る(井川さんはこれを「風まるくん」と呼んでいた)。その表面に各自が思い思いに黒の油性ペンで表面に触れ、点や線を描く。そして、ラベルシートに目のようなものを書いて貼る。それをハグして感触を確かめる。一度縛った口をほどいて、中から空気を出して、その音を聞く。そうやって体験したことを、絵や線や言葉で10センチ四方のカードに書き留めていく。3~4人のグループになり、お互いの「風まるくん」と書き留めたカードをお互いに見せ合う。そして一人ずつ、なぜその場面をそういう絵で表現したのか、この線は何を表しているのか、その時どんな気持ちだったのかと言ったことを話していった。

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 その後いったん休憩をとって、参加者にはキャンパス内を探索してもらった。そして気に入ったもの、気になったものを、同じく文字や絵や線でメモしてくる。その間に会場では井川さんが、10センチ四方の色画用紙、黒の画用紙を並べていた。探索から帰ってきた参加者たちは、「風まるくん」と探索中に書き留めたものをもとに、クレヨンでその色画用紙に“作品”を書いていく。一人一人みんなに見せて、井川さんが質問やコメントをした。

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 時間が3時間を過ぎたので、井川さんはここで終わりにしましょうと言ったが、ここまではいわば“作曲”、“楽譜”ができた段階。やはり“演奏”までしないと、私が満足できない(というか、理解ができない)。そこで最後に、ある参加者が作品として書いたことからイメージされる音や声、体の動きなどをみんなで考えながら、みんなで一緒にパフォーマンスをした。そうして私たちは確かに、3時間かけて感じたこと、考えたことを絵や線や文字で描くことで自分たちの経験を融合させ、いっしょに一つの“曲”を奏でることができた。ここに至って、私自身ようやく井川さんの作曲家としての活動を理解できた。そして一緒に作品作りができたことは、私も含めてすべての参加者が感じたことだろう。

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