【イベント報告】<哲学 x デザイン>『みえないあなたみえるじぶん』
5月28(日)アーティストの鈴木康広さんと共に <哲学 x デザイン>プロジェクト「みえないあなたみえるじぶん」を開催しました。
UTCP初とも言えるものをつくっての対話型ワークショップ。
会場は半透明のスクリーンでしきられ会場は真っ二つにされ、参加者は交互に2つの空間へと分けられ入っていった。みんななにがおこるんだろうと不思議そうに、でも楽しそうに和やかに歓談しながら開始時間を待つ。
「みなさんこんにちは〜」
今回ゲストの鈴木さんがひょこっと会場の2階から頭を出し参加者の皆さんに挨拶しワークショップは開始。
「まずは素材を触って楽しんでください」
目の前に配られた石鹸の粉をさわりながら参加者は自分の感覚を深めていく。そこから水が配られ、粉と一緒にまぜてこねながら「せっけん粘土」を作っていき、いろんなかたちをつくって素材に慣れていく。
参加者は子供から大人まで幅広い年齢層。参加者がすわるテーブルでやさしく参加者に声をかけながらテーブルを一つずつまわる鈴木さん。
握り拳ぐらいのおおきさになったところで参加者にこねていた時の感触や感覚の感想を聞いていく。「懐かしい匂いがした」「パン作ってる時みたいだけど柔らかくもないし硬くもない」参加者それぞれ自分の経験の中の触覚や嗅覚の記憶と照らしながら語っていたのが印象的でした。
撮影:鈴木康広(photo: Yasuhiro Suzuki)
その後参加者は自身のこねた粘土をもって半透明のスクリーンへ移動。空間の横幅一面のスクリーンに皆横並びに机と椅子を並べ座る。ここで初めてもう一つの空間の人と対面。とは言ってもその人の姿は半透明のスクリーンでは見えない。相手の「気配」というか輪郭はなんとか見えるが、顔や細かいディテールまではわからない。
「では、向かい側にいるひとの手をつくってください」と鈴木さん
一見参加者は迷いも見せながら向かい側の見えるようで見えない相手の手を対話しながら先ほど作った石鹸粘土でつくっていく。
「手の平はどれくらい大きいですか?」「〇〇屋のおにぎりが一個ちょうど乗るくらいです」
「指の太さはどれくらいですか?」「ドクターグリップくらいです」「私はシャウエッセンですかね」
「手はどんなテクスチャーしてますか?かたい?やわらかい?パサパサですか?ゴワゴワですか?」
定規などの図るものもない中で皆、擬音や原体験からの頭のイメージを頼りに相手の手の像を作り出していく。
1時間ぐらい経過した手の形がだんだんと出来上がっていった。
ここで一旦参加者は外へと案内され、鈴木さんと関係者でスクリーンを外し、会場内のテーブルで島をいくつか作り、参加者の「手」をランダムに乗せていく。
そして参加者はまた会場へと案内され鈴木さんから「自分のだと思う手を探してください。他の人とかぶっても構いません。そして自分の作った手は見つけても絶対に声に出して言わない」
みんな自分自身の手と見比べながら机の手をみていく。机の即決もあれば慎重にひとつひとつ吟味しながら決めたりと10分ほどかけて自分のもうひとつの手の前に参加者は座っていく。
撮影:鈴木康広(photo: Yasuhiro Suzuki)
そしてみんなが着席したところで鈴木さんと進行役の梶谷教授が参加者に「なぜこの手を選んだんですか?」
自分が答えた回答と一番近いと思ったから、大きさが同じだからなどと選んだ理由は様々。みんな自分の「手」についてとても熱心に語る。作られた手をみて鈴木さんもての特徴など造形的な感想をいう。そして答えている方の手を作った方はどなたかと尋ね追加で「これはあなたが作った手ですか?」と梶谷先生が問う。
「いいえ違います」会場にみんなの温かい笑い声が響く。
意外と自分の手の形や外見は知ってるようでは知らないのかもしれない。ほとんど当たる人はいなくもう一度みんなかんがえる。そして2回目で当たると一斉に会場は拍手と喝采に湧く。 会場のみんなに一体感が生まれた。
一旦ここで作るワークショップを締め。最後に鈴木さんのこれまでの作品作りや活動についてお話をしていただきました。
飛行機から見えた船がファスナーに見えたことから「ファスナーの船」を作ったり、けん玉のボールがりんごに見えることから「りんごのけん玉」をつくったり。鈴木さんはとにかく見立てが上手。しかしその見立てだけでなくそこからまた2つのものの関係性を作品を通して作っていくところがとても面白い (詳しくはこちらのホームページからhttp://www.mabataki.com/works/)
一回日常的に目の前にあるものを何かに見立てることで、改めてその性質だったりが俯瞰的に見えるのかもしれない。そして改めてそのものの本質や価値もわかってくる。
そういう意味で今回のワークショップも参加者は自身の手を言葉で他のものに見立てながら語っていた。そして自分の石鹸の「手」に出会った時には皆誇らしげに、そして愛着を持って自分の手を持ち帰っていました。参加者みんなもこれからはもう少し自分の手を見つめる時間が増えるのかもしれません。
撮影:鈴木康広(photo: Yasuhiro Suzuki)