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【報告】UTCPシンポジウム「社会の中で哲学にできることとは?」

2022.03.05 堀越耀介

 UTCPシンポジウム「社会の中で哲学にできることとは?」が2021年12月18日(土)14:00~16:00にオンラインで開催された。

 本イベントでは、企業として哲学事業部を展開し、サービスデザインや企業の理念構築をおこなっている瀬尾浩二郎さん(株式会社セオ商事 代表取締役)・今井祐里さん(株式会社セオ商事)と、哲学の修士課程を修了して起業している田代伶奈さん(株式会社FRAGEN 代表取締役)をお呼びして、「哲学すること」の仕事への活かし方、あるいはそれを直接的に仕事にすることについて考えた。UTCPのリサーチアシスタントである堀越耀介と、センター長の梶谷真司も、オーガナイザーとして参加した。
 株式会社セオ商事のお二人からは、「メタフィジカル・デザイン」の提供というユニークな視点からお話をしていただいた。それは、「問いを立てるワークショップ」や「概念工学」などの手法によって、新しい価値の発見や前提を問い直し、企業の様々な活動をサポートする活動である。「デザイン」というと、私たちはどうしても「目に見える形のある物をデザインする」と考えがちだ。しかし、抽象的なもの・概念からこそものごとをデザインするというのが、このメタフィジカル・デザインの核心にはある。
 こうした視点を核として、企業の様々な課題や目的に応じ、その都度のリサーチ、グラフィック・レコーディング、インタビュー、UI/UXデザインなどを組み合わせ、斬新な事業を行ってきたのがセオ商事の活動である。自社内部でも、「そもそも問いとは何だろうか」、「問いを立てるとき、私たちは何をしているのだろうか」といった議論が常に交わされているなど、単に事業としてのみならず、それ自体が「探究の共同体」である企業としての性格が見え隠れしたのも印象的だった。重要なのは、それが「考えることから疎外されない」、「考えることだけで終わらせない」、「問いっぱなしにしない」といった実践的な理念と合わせられていることによって、しっかりと社会実装や一つの事業として成立させられているという点だろう。
 また、以上のような背景から、セオ商事は『ニューQ』という哲学雑誌の発行も行っている。ニューQは、誰もが哲学という営みを身近にとらえられるようにと、アートや文学から政治、社会問題など様々なコンテンツから構成されている。その中では、学問としての哲学と社会との接続という観点も重視されていて、専門的な研究論文についての記事も掲載されていたり、研究者に研究内容をインタビューする記事が一般向けに分かりやすい形で掲載されているなど、社会における哲学の位置を捉えなおそうとする。
 田代伶奈さんは、必ずしもこうしたコンテンツとしての、あるいは方法論的な意味での「哲学」を直接的に事業としていないとはいえ、大学院で学んだ哲学的な思考や態度が、自身の仕事をするうえで役に立っているという視点から、お話をしていただいた。田代さんは、政治的、社会的な課題を考えるための基盤づくりや、そのうえで必要な視点や知識・コンテンツなどをSNSや動画などWEB上で発信する事業を行ってきた。
 こうした仕事をオーガナイズする際には、実のところ何が問題であるのか、そもそも問題となっているところのものが何であるのか、といった視点を持つことが極めて重要になってくる。そして、思考や探究の結果は常に暫定的なものであり、答えを固定的なものとして捉えない、絶対的なものとして捉えないという哲学的な態度を持ちつつも、事業として社会実装を考える際には、どこかの地点で決定を行わなければならないという必要性についても語られた。そして、ある点でその決定を行うことと、問いを立て続けていくということの緊張関係について参加者やオーガナイザーを含めて、全体で議論した。

(報告:堀越耀介)

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