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【報告】こまば哲学カフェ シリーズ:「受験」ってなんだ?

2021.03.04 梶谷真司

世話人:哲学対話ユニットALUL(和田野涼子・歌代雅代)

■シリーズ趣旨文

「受験」という言葉を聞いて、どんな感じがしますか。
嬉しい?悲しい?楽しい?苦しい?
実は、もやもやしていたりしませんか?
皆さんと一緒に考えるのは、「受験」に合格するための方法ではありません。
受験に関する悩みの解決法を探したり、受験制度を議論したりすることでもありません。
受験にまつわる「問い」を出し、出てきた「問い」についてみんなで考えること。
そうすることで自分の中の「受験」がどう変わるか、あるいは変わらないのか、実験してみませんか。
自分が受験をした人、子どもが受験をした人、受験生のサポートをしている人、
これから受験を考えようとしている人、試験をする側の人、受験をしたことのない人。
受験の疑問、悩んでいること、受験にまつわる皆さんの思いをいっぱい持ってきてください。
ここから、哲学対話の「問い」を一緒に探し、考えていきましょう。

■各回のタイトル名・開催日程・参加人数・開催形式

第1回「受験」にまつわる〈問いを見つける〉ワークショップ(問い出し+登壇者体験談発表)
日時:2020年7月23日(木・祝日) 14:00~16:00/38名
第2回「受験ってなんだ?」(哲学対話)
日時:2020年8月21日(金)20:00~22:00 /8名
第3回「学歴があると生きるのに有利なのか」(哲学対話)
日時:2020年9月25日(金)20:00~22:00/7名
第4回「なぜ親は子どもの受験に手を出したくなるのか?」(哲学対話)
日時:2020年11月13日(金)20:00~22:00/10名
第5回「親の期待」(ゲストのお話+哲学対話)
日時:2021年2月20 日(土)10:00~12:30/13名

■オンライン哲学対話開催にあたって大切にしたこと
初めての参加者にもハードルが低く、安心して考え、発言できる雰囲気を作ることを大切に考えた。具体的には下記を実施。
・全員でゆったりと対話ができるよう、少人数の募集。
・オンラインであっても、対面で行われているかのような温かさをと考え、特別な事情がない限り対話中は画面をオンに、zoom機能である「チャット欄」も原則的に使用しない。
・発言の意思表明もリアル(オフライン)同様実際に手を挙げる。
・哲学対話が初めての方にも哲学対話の「8つのルール」(梶谷真司著『考えるとはどういうことか 0歳から100歳までの哲学入門』から引用)について具体例を挙げながら丁寧に説明をした。
・問いだし、問決めをする回は、Googleフォームを使用し匿名になるようにした。

■実施内容・新たな問い・意見
〈第1回〉
初回は哲学対話を行わず、ワークショップ形式で開催。
前半:5名程度の小グループに分かれ「受験」にまつわる問いだし(zoomブレイクアウトルーム使用)、その後グループごとに話された内容と問いの発表。
後半:参加者3名(事前に募集)に登壇頂き「受験」についての体験談発表
問いは「学歴」「偏差値」「親」「教育」などのワードが入ったものが多く出た。
体験談では「受験」に対してご自身の体験とそこから受験をどう捉えたかを話していただいた。チャット欄には沢山の感想や質問が寄せられた。
受験をどう体験するか、また立場によって「受験」への考え方の違いがあった。

〈第2回〉
初回のワークショップの中から5つの問いを提示。投票で「頭がいいってなんだろう?」が選ばれ哲学対話をした。「自分にとっての頭の良さ」の理想はそれぞれ違うこと、「受験」の中で測られる「頭の良さ」は社会で求められる「頭の良さ」と合致していない、受験の世界でも、評価の基準、求められる頭の良さの「尺度」が変化してきたことなどが話された。
この回は中学生が参加してくれた。「頭が良い」=「ずる賢い・さぼるのが上手な人」という答えに大人の参加者は新鮮な驚きをもらった。

〈第3回〉
「学歴があると生きるのに有利なのか」を問いとして哲学対話をした。
就職のときは「高学歴」であることは有利。しかし、それ以外の場では「高学歴」であることは有利にはならない。学歴があることが仕事を得る上で有利なのはわかった。でも本当にそれだけが大切なのだろうか?
社会で求められる力は「学力」だけではない、自分のやりたいことを思い切りやる人生を望みつつ、同時に「学歴」をつけてほしいと子どもに願ってしまう母親のジレンマ。「人間力」は大切、でも仕事に就くためには現実的に「学歴」は必要。「わかっちゃいるけど」という思いがグルグルと回った。

〈第4回〉
「なぜ親は子どもの受験に手を出したくなるのか?」を問いとして哲学対話をした。
これからは今までの親の物差しでは測れない先の読めない時代が来る。その時により子どもにとって良いかかわり、介入とは何か。どのくらいの距離感でいたらよいのか?生まれた地域・親の職業・環境などで親の子どもへの教育への関心が全く違ってくる。楽しさがわからなかった勉強というものが、大人になってから楽しくなる。今の高校卒業から大学入学の流れでは、学びたいときに学べない。学びたいときに学べる環境が必要、といったことが話された。「受験」という問いなのにいつの間にか「子育て」の話になっていて、子どもへの向き合い方がそのまま受験への向き合い方に重なった。そして受験の最終段階「大学」受験システムに関しても疑問が出た。

〈第5回〉
お寺の次男に生まれ継承問題に悩んだ三浦祥敬氏をゲストスピーカーにお招きし「親の期待」をテーマにお話を伺った。全員に感想を聞いた後、問いを出し哲学対話をした。
選ばれた問いは「親の期待はどこからくるものなのか?」。
「よいもの」だから、もっていてほしい。それは親のエゴなのか?経験のない子供に対して、選択肢として親が与えるものは愛情、それが期待なのでは? 子どもとして、「期待しない親でいてほしい」という期待もしてしまう。最初はかわいいだけの赤ちゃんだったのに、どんどん期待してしまう。「子どもは親の欲望を刺激する存在」といった話がされた。ゲストスピーカーは20代後半。参加者に子ども世代・親世代が混在したことで様々な視点を共有できた。

<第1回~5回を通して>
「受験」には様々な側面があるが、若い時に受験するのであれば「環境」が大きく関係してくる。「環境」には親の思い、経済状態、経験、学校の関わりなどがあり、本人の思いだけが純粋に通るとは限らない。親にとっては「受験」が「子育ての一環」にもなっている。
「今日話してきて、自分はこのままでいいと思った。これからも心は揺れると思う。しかし、その不安定なバランスの中での不安を引き受けてこれからも子供と向き合いたい。」ある回での参加者の感想が印象に残った。子育てに正解がなく、理想や常識も時代で変わるのと同じように、「受験」にも正解はなく、変わっていくものだと感じた。だからこそ、周囲の価値観で受験者本人を縛ることのないように、本人も周りの大人も「受験」を問い続けることが大切だと思った。


■感想
「私、ママの敷いたレールの上をずっと進んできたんだね」。
予想しない結果で大学受験が終わったとき、娘は言いました。「子どものため」と思って小学校受験からお受験ママ人生を突っ走ってきた私は、親としても人間としても自信と気力を失いました。
受験ってなんだったの?そんな思いの中、偶然出会った「哲学対話」。発言もせずただ聞くだけの参加なのに段々と自分が解放され「これでいいんだ」と思えていく。哲学対話は私にとって「人生再生」の場になりました。
もし、子どもの受験に邁進していたあの時にこんな哲学対話の場があったらどんなに良かっただろう。そう思いました。今度は自分で哲学対話を開いてみたい!テーマはあの時浮かんだ問い、「受験ってなんだ?」。
そんな折、2020年4月25日UTCPで開催された「はなれてもつながる対話の、とりあえず企画会議!」に出席しました。それでも立派過ぎる「こまば哲学カフェ」という名を冠しての開催デビューを迷っていたところ、哲学対話を通じて出会った歌代さんが「一緒にやろう!」と背中を押してくれました。
哲学対話は、キャリアも無くなんとなく生きてきた専業主婦である私に「仲間」を与え、驚くほど主体的にしてくれました。
今後も「受験ってなんだ?」を通じ「受験」「学歴」「親」「子育て」のことを考えていきたいと思います。
ずっと支えてくださっている梶谷先生、いつも温かく対話の場を一緒に創ってくださる参加者の皆様、本当に有難うございます。
(和田野 涼子)

ただ哲学対話が好きというだけで始めた専業主婦2人の哲学対話ユニット。
UTCPという壮大な名前に気後れしながら、何もない主婦2人のユニットをスタートして8ヶ月。ALULの名前通り「ただ楽しくて好きだから」という気持ちでイベントを5回開催。
しかし、自分達のやっていることは単なる道楽なのではないか? 周囲の方からもそう見えるのではないか? 何かしらの社会貢献的な意味がないといけないのではないか? 正直このような思いが常に頭の片隅に。
それでも、何回か開催するうちに、繰り返し参加してくださる方の意見を聞くことを私自身が心待ちにしていたり、哲学対話を知らなかった人が参加してくれることが嬉しくなったり、哲学対話って面白いよねと共感しあったり、対話の時間を通して次にやりたいことが見つかったりと、このような経験を通して、社会貢献的な意味は今は拘らなくても、良いのではないかという開き直りが出てきました。
この活動の先に何かが見つかるか、はたまた何も見つからないのかもわからないが、できればもう少しこまば哲学カフェの軒先を借りながら、楽しんでイベントを続けさせていただけたらと思っています。
(歌代 雅代)

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