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こまば哲学カフェ シリーズオンライン みんなではなすアート鑑賞実施報告

2021.02.17

世話人 川口朋美
(2020 年 7 月から 10 月に行った 3 回のオンライン対話型鑑賞について)

1. タイトル
第 1 回「ゴッホの絵を見てみましょう」7 月 5 日開催
第 2 回「ピカソの絵をみてみましょう」9 月 26 日開催
第 3 回「太郎さんの絵を見てみましょう」10 月 31 日開催(岡本太郎作品の鑑賞)


2. 開催概要
2020年初頭から始まったコロナ禍により、日本はもとより世界中の美術館が閉鎖され、外出の許可も制限されることが多くなる中、多くの美術館が作品のデータベースをネット上にあげ、今まで国内では見たことのない作品もウェブサイトで見られるようになるという状況となった。私は、それらの画像を利用し、昨年まで自主事業として、学童クラブを対 象として横浜美術館や岡本太郎美術館に協力を得て行っていた学校や美術館で実施していた「対話型鑑賞」が今年度よりとりやめになったこともあり、視点を変えてオンラインで 一般募集をして開催する「哲学対話」として行うことを考えた。対話型鑑賞を「哲学対話」と定義づけ、哲学対話の場である「こまば哲学カフェ」への参加を決意したのは鑑賞に用いる“対話のルール”と哲学対話のグランドルール“自分の考えを自由に発言する”“他者の発言に耳を傾ける”“他者の発言を遮らない”“他者の発言を否定しない”など、多くの共通性があること、またアート作品を自由に鑑賞することを推進したいとの希望から「答えのない問い」として見立てられるのではないかと考え、哲学対話の類として認められるのではないかと考慮したことが理由である。

このオンライン対話型鑑賞は、公立美術館の鑑賞教室などで利用されている“ヴィジュアルシンキングストラテジー(VTS)”という対話のメソッドと、梶谷真司著「考えるとはどういうことか」で紹介されている“対話のグランドルール”を応用し、“見ることと考えること”“発言を守ること”を主とした目的を対話の定義としてアナウンスし、導入部分で共有の上ルールに沿って発言していくことで自由な発言を促し、進行していく。(オンラインの対話型鑑賞はほかでも行われているが、どんなやり方であるかの定義はない) この対話型鑑賞と哲学対話との違いはファシリテーションの方法の中で、“パラフレーズ”という方法を利用し、ファシリテーターが発言者のことばを再定義することで発言者への確認と「話をきいてもらえている」という安心感、また鑑賞者全体への共有を促し、他者の言葉と鑑賞作品と自分の思考を関連付けられるように実施しているが、大人に向けてはパラフレーズは極力減らしていって発言の自律性を尊重するようにしている。

3. 実績・進行方法
第1回 ゴッホの絵を見てみましょう→参加者 14 名(16 人定員)
第2回 ピカソの絵を見てみましょう→参加者 12 名(16 人定員)
第3回 太郎さんの絵を見てみましょう(岡本太郎作品を利用)→参加者 14 名(16 人定員) 各回 120 分で構成。
●導入部分で対話のルールを共有し、各々がそれに従って参加してくれるようにアナウンスする。
●参加者は 2つのグループに分けるが(6~7 人×2)同一画面でチャットとトークでの参 加を交代に行い、ブレイクアウトルーム(小グループ編成)はしない。
●基本的にはファシリテーターは 2 名体制で主にファシリテーションをしていないときに は1名にはサポートにはいってもらう。
●基本的にはビデオオンだが、病床の方やご家族が近くにおられる方、移動途中の方は申告があればビデオオフでも参加を可能にしている。
●画像がほぼ全画面を覆うので参加者の顔は見えなくなるため、発言者には声で発言を主張してもらうことが多い。
雑音が入る場所の方はミュートをお願いしているが、全員がミュートにするようには決めていない。(10回ほど開催したが、発言がぶつかることはなかったので今後も変えない)
●発言のハードルを下げるべくリラックスした雰囲気の中で行いたいので、カジュアルな 雰囲気をもって参加してもらいたいため飲食なども可能としている。積極的に「飲食しながら」などと告知文にも記載している。 思考と発言のストレッチとしてアイスブレイクタイムも必須で導入している。
●参加者に自発的に鑑賞作品の選定に関わっていることを意識してもらいたいため毎回 5作品ほど提案し、その中から多数決で2作品を選んでもらい鑑賞する。一点につき 30 分(合計60分)を鑑賞時間とする。
●終了後、短時間でも全員で振り返りのコメントを共有する。また、実物を見る機会が得 られるように作品情報を公開する。 以上、リアルではないが、できるだけ制限を感じさせないような空気感を持ちたいと考えて実施している。

4. 参加者の様子
・ゴッホの回では「星月夜」「部屋」を鑑賞作品として観賞。流動性やエネルギー、閉塞感を感じること、また、画面のゆがみから「心身の衰弱」「さびしさ」「だれかといる」など可視化されていない“気配のようなこと”などついても言語化された。
・ピカソの回では「旅芸人」「盲人の食事」が鑑賞され、「旅芸人」では描かれた人たちの 視線が交差していないことや周りの風景が荒涼としていること、描かれた人たちの様子か ら関係性をかんがえられたりした。「盲人の食事」では、全体の色合いから寂しさや貧しさ、 描かれたものの色や人物の表情から様々な読み取りがなされ、発言者の言葉が作品を創造していくような鑑賞となった。
・岡本太郎の回では「重工業」「戦士」が鑑賞され、「重工業」では人間と歯車、またロボ ットのように見える装置などを様々な人が見つけていき、重苦しいテーマのようだがコミ カルで親しみが持てる、「戦士」では、顔のように見える、一人に見える、複数人に見える、 文字に見える、など多様な見方が共有され、他者との相違に気づく機会となった。

〇自己紹介で所在地を述べる参加者より関東だけではなく様々な地方からの参加が可能であり、遠隔地の人との交流ができることもオンラインの特徴であると考えられる。 最後の振り返りでは、チャットに書き込むときと発言するときでは感じ方が変わるという 意見もあり、発話と文章では感じ方そのものに影響するという意見は興味深いと思う。

5. 鑑賞対象
WEB上の散逸な画像から作品を選びファイルフォルダを作成して利用することもあるが、 Google ART&CULTURE というアプリ上にフォルダを作り利用することもある。画像を拡大して詳細を確認することが可能なため隅々までみることができる。また、日本では紹介されたことのない画家の作品や巨匠の知られざる作品も鑑賞が可能になり、美術館での鑑賞とはことなる作品選びができる。

6.今後の課題と運営について
オンラインの申し込みが容易であることからか、連絡なくキャンセルするのも容易であるため連絡なく「来ない」人が毎回数名いるため、参加人数が開始してからでないと確定できない。
・定期開催は困難であるが、美術館が「予約制」などハードルを高めている現在、文化的 内容のコンテンツとして定着させていきたいのできるだけ間をあけずに開催していきたいと考えている。
・イベントのマネジメントは Peatix というイベント管理サイトを利用しているが、一時的 であれ多様な方の方の参加が可能なコミュニティ形成以外の意図はないため「こまば哲学カフェ」の対話イベントは無料で開催 していくこととする。

以 上 2020・11・20(2021・2・16)

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