【報告】駒場人文学研究会 第二回ワークショップ
2018年9月14日、駒場人文学研究会第二回ワークショップ「東アジアにおける『故郷』」が東京大学駒場キャンパスにて開催された。今回は一橋大学大学院と東京大学大学院から四人の発表者にそれぞれの研究について発表して頂いた。
セッション1では、桑原紗綾さんが満州国の代表的な作家古丁の雑文集『一知半解』と『譚』における「詩」観と「内容」への追求を考察し、そこに見られる古丁の創作態度の変化を跡付けた。陳雪さんは日中戦争期の新聞紙『東南日報』を取り上げ、戦況が厳しくなっていた中、『東南日報』における展覧会関係の記事の数が激減した一方で、木版画と漫画に関する報道が増えたという興味深い事実を指摘した。
セッション2では、賈海涛さんが短編小説集『城市地図』(文学者の金宇澄が編集を担当)の作家たちによる手書き地図を研究対象とし、これらの地図の形態、類型、空間的分布を整理・分析した。田中雄大さんはシンガポールの現代作家謝裕民の中編小説『アンボン休暇』の精緻な読解を通して、華語語系文学(Sinophone Literature)研究の理論に潜在する排他性を指摘し、テクストの「根茎」的解釈の可能性を再考した。
四者の発表はいずれも内容が濃く、独特なアプローチによるものであった。また詩論、新聞メディア、都市空間論、ポスト・コロニアリズムなど多様な分野に関わり、その場にいた参加者たちに大きな刺激を与えた。各セッションの自由討論の時間では活発な議論が行われ、会場も熱気に満ち溢れた。
(文責:郭馳洋)
当日プログラム
セッション1
桑原紗綾(一橋大学)
「満洲国時代」代表作家 古丁――雑文集から見るその創作態度
陳雪(一橋大学)
『東南日報』からみる戦時下の中国における現代美術の動向
セッション2
賈海涛(一橋大学)
上海文学における地図の研究――『城市地図』を中心に
田中雄大(東京大学)
男根(ファルス)から根茎(リゾーム)へ――謝裕民「アンボン休暇」における根(ルーツ)探しとSinophone Literature
駒場人文学研究会は東アジアについて研究している大学院生が自発的に始めたものです。ワークショップを開催するという形で、人文学に携わる若手研究者に発表・議論の場所を提供し、異なる研究領域の間の対話を促進するとともに、人文学の意義を問い直すことを目指しています。