Blog / ブログ

 

【報告】第二回東洋医学研究会

2018.07.31 梶谷真司, 中島隆博, 李範根, 佐藤麻貴, 榊原健太郎

6月18日に第二回東洋医学研究会が開催された。第二回目の研究会では、帝京平成大学東洋医学研究所所長の上馬場和夫先生に御登壇いただき、アーユル・ヴェーダの考え方を中心に御教示いただいた。

180620_1.jpg

上馬場先生のライフワークとして、伝統医学と現代医学の融合を図るというのがあり、先生の研究活動の一環として、鍼灸、漢方や中・韓医学のみならず、アーユル・ヴェーダも含めた東方医学研究の重要性について話していただいた。先生にとってのアーユル・ヴェーダの位置づけは、内なる生命の智慧や力を引き出すものと捉え、生命の科学、生命の神秘も視野に入れた考え方が医療の原点にあることが、現代医療にはない視点であることを力説された。ヴェーダとは紀元前1000年から500年頃にかけて成立したバラモン教の聖典(リグ・ヴェーダが有名)であるが、元々、多くのヴェーダは口伝で伝えられている。アーユル・ヴェーダは、4種類あるヴェーダ(リグ、サーマ、ヤジュル、アタルヴァ)の中で、成立年が最も新しいアタルヴァ・ヴェーダ(Atharva-Veda)に付随する医学関係のヴェーダとして伝わっている。ヴェーダの中では比較的新しいものとされているものの、所謂、伝統医学における成立年代は古い(中国最古の医学書『黄帝内径』の成立年は不明だが、前漢(B.C.206~A.D.8)末ごろには存在したとされている)。

180620_2.jpg

アーユル・ヴェーダは死生観も含めた生き方の智慧であり、身体への全体的なアプローチをする。すなわち、五感を使った日々の体調の変化の把握や、脈診などを通し、一日、一年、一生を通してドーシャの変化に応じて、自分の体調が変化することを自覚し、ケアすることが重要であるらしい。外側からのアプローチとしては、ヨガ、呼吸法やマッサージなどがあるが、内側からのケアとして食養(スパイス、胡麻油、ギー)が挙げられた。また、ジーヴァカ(耆婆、釈尊の医師と伝えらえる)が、この世にある全てのものは薬効を持つとした話を紹介され、現代医療において、人糞や昆虫、土などの薬物的利用が検討されていることを紹介された(『医心方』丹波康頼編、984年成立にも、耆婆の処方がいくつか紹介されている。また、耆婆の処方ではないが、『医心方』にも動物糞や人糞、フケ、土などの薬物利用は掲載されているため、それらの利用は現代医療において画期的で特徴的ではなく、むしろ古代の知恵が現代医療に応用されるようになったと見た方が良いだろう)。

180620_3.jpg

アーユル・ヴェーダでは体質をヴァータ(風)、ピッタ(火)、カパ(水)の三性質に分類する。実際に五感の状況を確認し、体験するため、アーユル・ヴェーダ式の脈診を教えてもらった。アーユル・ヴェーダでは、女性は左手首の脈、男性は右手首の脈を、手首の外側から三本の指で触れることによって診る。人差し指ではヴァータ、中指でピッタ、薬指でカパの脈を触れることができ、それぞれの脈のうち、一番、脈打ちが大きいと感じる指が、体質を表す。一日のサイクル、一年のサイクルでは、カパ→ピッタ→ヴァータの順にそれぞれのエネルギーが優位になるため、午後には、人差し指で触れるヴァータの脈を一番感じることができる。

180620_4.jpg

また、アーユル・ヴェーダ的な体質(ヴァータ、ピッタ、カパ)を知るために、嗅覚を使い、どのハーブティを飲みたいか?ということから、自分の身体の状況がどういう状態にあるのか推察できることを体験した。上のハーブティでは、左からヴァータ、カパ、ピッタとなる。こうした嗅覚や味覚を通して、自分の体質に必要なものを取り入れる本能は、本来的に人間に備わっているもののようだ。近年、漢方薬の処方に際し、体質に応じて漢方薬が効く、効かないといった効能の不安定さが問題になっていたが、漢方薬の香りが好きか嫌いか、味を美味しいと感じるか不味いと感じるかで、漢方薬を処方された患者への薬効が異なることが分かってきている(福島県須川診療所後藤和子先生談)。

呼吸法では、息を吐く時に心拍数が下がり、カパが上がり、副交感神経が優位になりリラックスする。逆に息を吸うときには、心拍数が上がり、ヴァータが上がり、交感神経が優位になる。現代では、交感神経が優位になっている状態が続くため、いかに身体の声に耳を澄ませて、副交感神経とのバランスを保つかが大切になってくるようだ。(文責:佐藤麻貴)

・参考文献:
『医心方事始』槙佐知子
『新版インドの生命科学 アーユルヴェーダ』上馬場和夫

Recent Entries


↑ページの先頭へ