【報告】フィリップ・トーマス氏講演会:後半
フィリップ・トーマス先生は1996年のシュミッツ来日講演を受けて出版された『新現象学運動』への寄稿者でもあり、ヘルマン・シュミッツの現象学を研究対象の一つとされている。梶谷真司先生からのご紹介に続き、後半では Hermann Schmitz’ Theory of Being a Person and its Impact on Different Mode of Perception と題して、ヘルマン・シュミッツの知覚論に関するセミナーを頂いた。
セミナーでは、シュミッツの志向性概念への批判が紹介されたあと、「現在」Gegenawartという概念が紹介された。例として「手術前夜」が取り上げられ、「ここに、今、現実に存在していて、手術で何が起きるかということからも、私であるということからも、逃れられない」という経験が「現在」の事例として挙げられた。次いで現在を構成する五つの契機(ここ、今、私、現実存在、このもの)が「融合」しているような「原初的現在」の概念が説明され、そのような原初的現在からの「展開」(諸契機の分化)に加えて、原初的現在への「人格的後退」(確固とした個人として存在することをやめ、原初的な融合状態へ戻ること)の概念が説明された。重ねて原初的現在における直接的で非表象的な知識の可能性が示唆され、一人称的認識における「対象との同一化」によって達成されるような知覚のあり方が検討された。
質疑応答では、原初的現在における知覚が言語的な表現にも開かれているというトーマス先生の示唆を受け、言語による記述可能性の問題や、人格的後退が生じるための契機、条件について、活発な意見交換が行われた。とりわけ原初的現在における「同一化」という知覚のあり方が、死者や川といった(明らかに)生きていない存在との間にも生じるのかという問題が西洋と非西洋の知的枠組みの問題を絡めて議論され、セミナーは盛況に終わった。文責:塚原遊尋