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【報告】 ANU-PKU-UTokyo Winter Institute 2018 (1)

2018.02.01 梶谷真司, 中島隆博, 石井剛, 橋本悟, 佐藤麻貴

2018年1月22日、北京大学・オーストラリア国立大学・東京大学による第三回の共同Winter Instituteが東洋文化研究所において幕を開けた。各大学から集まった教授と大学院生が五日間に渡って議論する今回のテーマは、「批判的地域研究——共生の理論と実践」(Critical Area Studies: Theory and Praxis of Co-existence)である。歴史学、政治学、社会学、哲学などという様々な視点から、現在世界的にますます緊迫している課題に、また、「共生」というUTCP設立の本旨に挑戦する。

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東洋文化研究所3階会議室において、朝、まずは研究所長である桝屋友子氏より、続いてオーストラリア大使館政務担当公使Bassim Blazey氏から歓迎の挨拶をいただいた。

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最初の講演は 、プログラムの調整により、オーストラリア大学のPaul Pickering氏が登壇した。中国語の「東張西望」(to look east and west, to look all around)という熟語を切り口に、前回Winter Instituteの議論を振り返り、氏の批判的地域研究に対するさらなる思考を報告する。チャールズ・ディケンズの小説に隙間見る、19世紀世界帝国としてのイギリスにとっての「必要なる他者」であった中国のイメージ。英語で創作活動を展開してきた中国人作家郭小櫓における言語の問題。フランスの哲学者Michel Serres の翻訳理論。最後に氏が提示したのは、言語を超えたコミュニケーションの方法としての音楽の可能性であった。

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音楽は新しい共生の地平を切り開けるのか。Paul Pickering氏の考案は活発な討論を起こし、熱烈な雰囲気の中、北京大学のHui Jiang氏による第二の講演が始まった。氏の研究者としての独特な経歴を述べてから、まず、中国におけるアフリカ研究の展開及び現状を報告した。次に南アフリカの作家たちが対面している様々な政治的・社会的・言語的困難と、アフリカ文学研究におけるコロニズム、ポストモダニズム的アプローチの問題点を指摘し、Niq Mhlongoの作品を例に、「方法としてのアジア」という氏の発想を提示した。

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東京大学の石井剛氏による講演は、パレスチナという、「共生」がまさに厳しく問われ続けられている土地で撮影されたビデオ映像から始まった。トラウマティックな歴史と現実のもとで生きる人々は、過去とどのように向き合うべきなのか。異国の言語によって、マイノリティーである自分たちの経験と記憶を語ることは何をもたらすのか。1948年の済州島四・三事件を巡る二人の在日朝鮮人作家金石範(Kim Sokpom)・金時鐘(Kim Shi-jong)の文学活動、『論語』の孔子の言葉、武田泰淳の『史記』を通じて、氏の講演テーマである「文」による共同体の可能性を吟味した。

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講演が順々と進む中、窓の外では、東京にとっては数年ぶりの大雪が降り始めた。雪が積もっていく本郷キャンパスの景色に賑わいながら、参加者たちは晩餐会において、質疑応答の続きや、和やかな交流をして、初日の議論を終えた。

文責:張瀛子

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