梶谷真司 邂逅の記録94 Knowledge Forest~本を通して知と人を結ぶ
12月17日(日)、デザイナーの河本有香さんとのコラボで、「Knowledge Forest~知の森 つながる、ひろがる図書館」というイベントを行った。河本さんは、以前〈哲学×デザイン〉プロジェクトのイベントを行った名古屋芸術大学の水内智英さんの友人で、そのときに知り合った。夏に河本さんから東京でのKnowledge Forestの展示の案内をいただき、身に行ったのがきっかけで今回のイベントを企画するに至った。
Knowledge Forestは、もともと河本さんがロンドンの美術学校に留学中、卒業制作として行った活動である。帰国後、彼女の故郷の富山の図書館で開催。市民参加型のインスタレーションで、ある種の地域おこしの活動の側面も持っている。葉っぱの形をした和紙に自分の好きな本のタイトルとアピール文を書き、それを上から垂れ下がっている紙紐に括り付け、さらに自分が気に入った他の葉っぱと結束バンドで結びつける。そうやっていろんな人が自分の葉っぱと人の葉っぱをつないでいくことで、自然に森が育っていく。図書館という知の空間において、本という知の結晶を通して、人と人がつながっていく。そこで使われていた葉っぱは、地元の蛭谷(びるだん)和紙の職人の協力を得て、図書館で廃棄された本を和紙に混ぜて作ったものであり、「その土地で生い育つ樹」というコンセプトを大事にしている。それがどんなものかは、以下のFacebook Pageを見ると分かる。
https://www.facebook.com/knowledgeforest.chinomori/
今回はこのイベントを東大の駒場キャンパスで行うということになった。今回の葉っぱは市販の和紙を使ったが、キャンパスに落ちていた銀杏の葉っぱを印刷することで、駒場という土地とのつながりを作った。
午前10時からの第1部「知の土づくり」では、インスタレーションの大枠を作るのに、会場の天井にある穴に紙紐を通して、そこに葉を取り付け、互いに結びつける(富山と違って一日しかないので、ある程度ダミーで森を作らないといけない)。それなりに森っぽくなったので、ランチタイムをとって午後1時からは第2部「「知の森づくり」で、実際に参加者が本の紹介を紙に書き、他のものとつないでいく。その後河本さんの方からKnowledge Forestの活動について説明してもらった。
私自身京都の地球研で3年ほど地域おこしのプロジェクトをもっていた。そこで地域のいろんな人を巻き込んでいくのに、デザイン、とりわけインクルーシヴ・デザインの手法がきわめて有効だという感触を得ていた。インクルーシヴ・デザインでは、利用者と製作者を区別せず、初めから一緒に作業をしながら製品を作る。それと同様に、地域でも誰かがやるべきことを構想し、後から住民がそれに協力するのではなく、初めから一緒に何をするか考え、活動を進めていく。河本さんの参加型インスタレーションも似たコンセプトを持っている。
さらにデザインは美的なもの(美しいもの、かっこいいもの)を通して物や人、空間や環境、コミュニティに関わる。伝統的に哲学では、この世界には「真」・「善」・「美」という3つの価値があると言い、通常は「真」が一番価値があり、それに「善」と「美」が続く。ところが真は頭のいい人しか動かさないし、善は良い人しか動かさない。しかし美なら、子どもも含め、誰でも動かすことができる。なぜなら、たいていの人は美しいもの、かっこいいものが好きであり、自分もそうありたいと思っているからだ。だからいろんな人と結びつき、協働するためには、美的なものに訴えるのがいい。
Knowledge Forestが面白いのは、本といういろんな年齢、世代、性別、身分、経歴の人たちが本という身近なものを通して、また(今回は違うがもともとは)図書館という誰でも出入りできる場所で、自らがそこに関わることによって自然に互いにつながっていくことだ。そこには本、知、人、場など、いろんなつながり広がりの可能性が秘められている。
そして続けて行った哲学対話では、「つながることは本当にいいことか、どのようなつながりがいいのか」について話し合った。似た者どうしがつながるのは心地いいが、それだけでは広がりがないが、異なる人とつながることの難しさもある。また、つながるのはいいが、それが負担になったり、簡単には離れられないことも多く、そのようなつながりはいいとは言えないのではないか。だとしたら、主体的につながり、離れる自由もあるのがいいのではないか。あるいはそれでは表面的にとどまり、深まりにくいかもしれない・・・等々。それ以外にも、ネットやSNSでのつながりの長所や欠点についても話が及んだ。
今回のイベントは、Knowledge Forestというインスタレーションに参加したこと自体も非常にユニークで面白い体験であったが、それを通して知と人のつながりの様々な可能性について考えることができたことにより大きな意義があった。今後別の場所で、別の形でさらに一緒に展開していければと思う。