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【報告】上廣オックスフォード講演会

2017.09.05 信原幸弘, 石原孝二, 石井剛, 佐藤麻貴

上廣倫理財団主催の講演会が8月30日に東京大学駒場キャンパスにて開催された。登壇されたのは、6月に博士号を取得されたばかりというOxford大学Carissa Veliz博士。講演タイトルは”The Duty to Protect One’s Privacy and the Ethics of Encryption”であった。当日はUTCP関係者を中心に、参加者の方が20数名、会場に集った。司会進行の石原先生のもと、講演会が開始され、Veliz博士により一時間の講演がなされた。

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講演内容は「デジタル社会におけるプライバシーと暗号の倫理」ということで、個人情報が様々な面で流布しやすくなっているデジタル社会において、プライバシーがどの程度確保されるべきなのか。また、プライバシーを確保するということはどういうことを意味するのか、まずはプライバシーの定義をすることから講演が開始された。プライバシーとは、様々な社会の位相における個人情報の保護を意味するが、同時に、個人個人において何をどこまで、プライバシーの範囲とするのかが異なっている。また、プライバシーとして守られなくてはならない個人情報の範囲も個人の主観に応じて異なり、プライバシーが担保されなくては社会生活を円滑に過ごすことができないと感じてしまうプライバシーに対する感度が高い人々が存在することも紹介された。

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そこから、問題提起として、社会として社会構成員の一人一人のプライバシー侵害をしないようにする、また同時に個人はプライバシーを保護される権利を持つといった、プライバシーにまつわる個人と社会の関わり方の複雑性について言及された。個人の立場からは、より安全でより良い社会生活のための個人情報流布を阻止するためのプライバシー、また、社会(文化)の立場からは、社会安全を担保するためのプライバシーに関連する情報公開といった、個人と社会、それぞれの要請により、二つの力がプライバシーを引き裂く形で存在する。テロリズムなどが問題になっている昨今の社会においては、プライベート情報を開示せざるをえない面もあるが、そうした社会の動きに対し、個人の対策としては、どこまで自分の情報を他者に開示するのか、といった個人的な選択と常識や判断能力がより問われるという事態を招いている。

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そこで、こうした事態に備えることができるのが、暗号化技術ということになる。暗号化することによって、個人情報を保護することが、良い策だということが共通認識になるためには、どうすれば良いのだろうか。そのためには、暗号化するということがどういったことを意味するのかを考慮しなくてはならない。例えば、今後、考慮する必要があるのは、暗号化ではなく規制で対応することはできないだろうか。また、現在の技術力でテロや大衆監視みたいなことは可能なのだろうか。といったような、暗号化技術が今後提示しうる様々な疑問を提示することで、講演は終了した。

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講演終了後はおよそ一時間にわたり、活発な議論が展開された。主な論点としては、フェースブックやワッツアップのような個人が流している情報における「発言の自由」とそれを管理監視するフーコーのパノプチコン的な社会になりゆくのか。大衆を管理する大衆管理社会型社会の功罪、また、大衆管理するからといってテロが無くなるわけではないといった矛盾をどうするのか。AI(人工知能)のような新しい技術を開発する際にメタデータを用いることとプライバシーの確保は矛盾するのか。また、まったく異なった視点でより良い倫理的な社会の構築のために、個人のプライバシー情報を倫理目的に使用する場合はプライバシーの保護をどう考えるべきか(例えば、個人破産を回避するために個人の口座情報を基にアラートを出すシステムなど)。個人の遺伝子情報、故人の個人情報、著名人の個人情報をどう保護すべきか。子供のプライバシーを管理するのは親の責任か(子供の写真を子供に許可を得ず掲載するなど)。なかなか議論は尽きず、活発な議論が展開され、講演会は盛況のうちに終了した。

(文責:佐藤麻貴)

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