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【報告】書記言語規範の東西比較について

2017.09.26 林少陽

去る9月19日、東京大学駒場キャンパス18号館にてワークショップ「書記言語規範の東西比較について」が開催された。

本ワークショップは「明治日本の言文一致・国語施策と中国をはじめとする漢字圏諸国への波及についての研究」プログラムの一環としてUTCP(東京大学哲学センター)との共催で開かれたものである。上記プログラムの今までのワークショップとはやや違い、今回のワークショップはラテン語文化圏と漢字文化圏の比較に主眼を置いており、時代的にも紀元前から近世にかけてというかなり広い時間範囲を扱うものである。

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今回の発表者は女子美術大学の原聖氏である。原聖氏は最初フランス史研究から出発し、後に社会言語学の方に転じ、様々な業績を有している。氏は2013年から2015年まで、科研「書記伝統のなかの標準規範に関する歴史的東西比較研究」にかかわっており、今回は主にその研究成果について報告した。具体的な発表内容について、以下に記したい。

氏はまずプラハ学派、社会言語学派、言語計画派による「標準規範」に関する議論を紹介し、また先行研究Scribes as Agents of Language Change(2013)を引用しながら、書記言語と言語の規範化とのかかわり、標準語の形成における書記家(Scribes)の重要性を強調し、また書記化と韻律書記化という二つの概念を紹介した。続いて、氏はギリシア語、フランス語、ケルト諸語などの言語の発展歴史における書記化と韻律書記化の状況を詳しく説明した。

次に、氏は東西の書記言語規範の比較に入り、欧州では、ラテン語の権威が浸透しはじめ、そうしたなかでラテン語に対抗する文字の創始があいついだ3-8世紀、さらにラテン語に対抗する形で規範を形成し始める「俗語」群(フランス語、英語、ドイツ語など)が登場する9-12世紀は、漢字文化圏では、ソグド文字、突厥文字といった表音文字が流入し(5-10世紀)、西夏文字、契丹文字、女真文字といった擬似漢字文字が創案される10-13世紀に相当する、と指摘した。さらに、南アジアでは、3-6世紀のグプタ朝がサンスクリット語の権威の絶頂期であり、13世紀以降はイスラム・トルコ文化が優勢となる。氏はこの時期の三地域の共通性として、中心となる文字の周辺に、それに類似する文字群が登場したことをあげ、またそれに基づいて、欧州に限定されがちな民族大移動の影響が欧州大陸全体に及んだのではないかと推測した。

以上が原聖氏の報告の大まかな概要である。さらに、発表後の質疑応答において、参加者たちは東西における「規範化」の内容の違いや、「漢字文化圏」の範囲などについて意見を交わした。

(文責:趙琪)

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