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【報告】筆談資料から見た言文一致――国語施策における日本の中国への影響

2017.07.18 林少陽

去る7月13日、東京大学駒場キャンパス18号館にてUTCPワークショップ「筆談資料から見た言文一致―国語施策における日本の中国への影響」が開催された。本ワークショップは「明治日本の言文一致・国語施策と中国をはじめとする漢字圏諸国への波及についての研究」プログラムの一環として開かれたものである。東アジアにおける筆談は言文一致研究においては重要な位置づけを占めており、今回の発表者は中国浙江大学日本文化研究所の王勇教授と、中国南開大学外国語学院の劉雨珍教授であり、二人とも東アジア筆談研究分野の専門家である。その大まかな発表内容について、以下に記したい。

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最初は劉雨珍氏が「筆談で見る明治前期の日中文学交流」と題した発表を行った。劉氏は近年明治前期の中日筆談を中心に活発的な研究活動を行い、『清代首届駐日公使館員筆談資料彙編』などを著した。劉氏はまず漢字圏における同文異語という特有性。すなわち、言語が通じなくても、漢字、漢文、漢詩を用いれば自由に交流できる特性が原因で、筆談は漢字文化圏の独特な交流手段として成立できたと指摘した。次に、劉氏は1877年に来日した何如璋、黄遵憲をはじめとする清国初代駐日公使館員の筆談から見る当時日中文学交流の様子を詳しく紹介した。具体的な内容について、最も注目すべきのは漢詩の唱和である。劉氏は漢詩の唱和を当時筆談のクライマックスであり、その中で特に黄遵憲は漢詩の才能を持っていると評し、また黄遵憲の筆談や『日本雑事詩』から当時日本の漢詩文の発展状況や明治初期の世相が反映されていると指摘した。また、筆談において日中の両参加者はお互いに『紅楼夢』、『源氏物語』や頼山陽など自国の文学名著や文人を紹介し、論じあっていた。なお、当時の筆談参加者は日中両国だけではなく、朝鮮の修信使金宏集なども加わっていたという。最後に全体のまとめとして、筆談資料の多様性、筆談内容の多彩性、筆談中の和臭問題、筆談研究の国際性、学際性などがあげられた。

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王勇氏は「「談草」と「斯文」― 東アジアにおける筆談文献の文体をめぐって」と題した発表を行った。王氏はまず筆談は文言(筆)と口語(談)を合体したものであり、対談式、問答式、唱和式など多様な形式をもっており、伝統的な文体分類にない新しい体裁であると説明し、それがゆえに、筆談を研究する際には新しい定義や研究方法が必要であると唱えた。また、王氏は筆談は東アジアにおいて千年以上の歴史をもっているといい、その最古のものとして607年の『扶桑略記』における筆談の例をとりあげた。次に、王氏は黄遵憲の漢詩「舌難伝言筆能通」や『琉館筆談』などの例を引用し、当時東アジア文化人にとって、筆談は窮屈ではなく、むしろ通訳を介して交流するより「縦横自在」、「通快利便」であると分析した。さらに、筆談文体の二つの特徴として、「談草」と呼ばれるような「雑乱無次」、「不暇文辞」の一面がある一方、「通於天下、達於古今」の「斯文」の一面もあると主張した。伝統的な「文」の概念に束縛されがちな中国文化人は筆談の整理保存をあまり重要視せず、むしろ「談草」が世に流布するのを恐れ、破棄しようとする人もいた。それに対し、漢字圏周縁にある日本の方が固有概念に拘らず、中国文化吸収のため、言語の壁を懸命に突き破ろうとした。

以上が、本ワークショップの大まかな概要である。二つの発表とも大変濃密なものとなり、約30名の参加者も大きな刺激を受けたものとなったように思われる。
文責:趙琪

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