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【報告】Delicious Movement in Tokyo (1)

2017.07.13

6月10日、17日、24日に東京大学駒場キャンパスで「Delicious Movement in Tokyo 2017」が開催された。講師の尾竹永子さん(以下、永子さん。彼女は参加者にそう呼ぶよう指示する)はアメリカ在住41年のアーティストで、「Delicious Movement」は永子さんがアメリカの大学で教える授業、その方法である。本ブログは、全3回にわたって講座の報告を行う一本目である。

今回の開催は3日間の短期集中講座として、元生徒の筆者が永子さんを招いて企画した。国内外から集まった参加者は次の問いに向き合った。「時間と場所のはなれた人や出来事との距離を変化させ、どう自分が生きていくことに結びつけるか?」 

Otake_1.jpgPhoto: Yohei Okada

東京大学駒場キャンパスの建物内で、ゆっくり、無為に動くのは老若男女の身体。「無意味に、役立たずに、無駄に」と講師の尾竹永子さんは囁く。薄ら眼を開けながら見渡すと、眼を閉じた人びとが、各々の形で「無意味に、役立たずに、無駄に」動いている。身体を囲う機能的な動きの枠縁を一旦とり、ただ曖昧な物体となる。自分が手をあげているのか、自分の手があがっているのか。この違いがわからなくなる。永子さんの授業は、こころ(mind)>身体(body)という縦の関係を崩して、横にすることからはじまる。動きのエクササイズは終盤に入り、「だんだんと動きを鎮める方向に向かってください。もっと動きたかったら、動いていてかまわない。身体の言い分を聞きながら、少しずつ落ち着けて」と永子さんが言う。そろそろと周りの身体に近づきながら、小さなグループを作り、エクササイズの中で経験した、感じたことを話し合う。「これまで一度も感じたことのなかったような、微量の風を手に感じることができて、それが心地よかった」と、イタリアの高校に通う参加者は言う。参加者は寝転がって自由なままに動き、自身の身体と互いにとって、横の関係を作る。

「Delicious Movement」は身体を起点にする動き、学びの方法である。身体が寝転がる場所と時間は真空ではなく、既に歪み、跡が付いている。「時間は均一でなく、空間は無でない (Time is not even, Space is not empty)」と永子さんが語るように、無為な動きをしようと、世界の現実とそれからの身体への制約は確実にある。むしろ逆に、無為な動きをすればするほど、その事実が自身と他人の身体に刻まれていることが思い出され、迫る。大江健三郎、坂口安吾、林京子の作品を読み、第二次世界大戦、原爆投下・原爆実験、福島原発のメルトダウンを、参加者は身体の動きを通して学ぶ。

Otake_2.jpgPhoto: William Johnston

上記の「アクティベーション」から始まる授業では、言語的な理解や知識は一旦保留され、身体と共に記憶や思考が動く。「頭の知性」の監視がない状態の身体は、動きながら、読んだ著者の時代や物語に感応していく。「原爆」「被爆者」「アメリカ占領軍」—ー参加者自身の身体を通した追体験が、括弧内に収められた対象との距離を変化させる。例えば、「ペーパーダンス」という白い紙を使うデュオのエクササイズと林京子の関連について、参加者は次のように書いた:「今回の『祭りの場』を読むまでは、思考の上で、『身体は白い紙のように破れない』という、一種の安心感に包まれていました。しかし、身体は破られる、圧倒的に。いろいろな破られ方をする。(中略)最も心に留めたいのは、破られる可能性のある、白い紙を使って、向かい合って踊るエクササイズのあとの『確かにあった(と思われるようなコミュニケーションのような)』感覚である」。

文責:青木光太郎(メディアデザイン研究所)

【講師】尾竹永子
ニューヨーク在住41年、現代ダンスとパフォーマンスの世界で「エイコ・アンド・コマ」として独自な作品を発表し続け、2014年からは「A Body in Places」というソロ プロジェクトを踊る。1970年代の日本で土方巽と大野一雄、ドイツでマニア・シュミエル、オランダでルカス・ホーフィンクに学び、アメリカでは多くのアーティストとコラボレーションをする。映像作品やインスタレーション、講演、写真展など活動分野は広く、マッカーサー賞をはじめとする多くの芸術・ダンス賞を受賞。ニューヨーク大学修士課程で原爆文学を専攻し、林京子氏の作品を自ら英訳出版、また紹介する活動も行ってきた。ウェズリアン大学をはじめとするアメリカの大学では文学、映像、ムーブメント、ビジュアルアートなど多様な方法を用いて原爆、原発、環境破壊などについて教える。

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