【報告】哲学対話をやりたい!人のための特別研修会(実践編)
2017年2月16日(木)にエコギャラリー新宿において、哲学対話の研修会「哲学対話をやりたい!人のための特別研修会(実践編)」が行われた。
この研修会は、昨年12月13日に駒場キャンパスで行われた「哲学対話をやりたい!人のための特別研修会」の実践編として企画された。この研究会では、梶谷真司氏(東京大学)が、現役の学校教職員や高校生に向けて哲学対話の目的や方法を説明し、学校での取り組みを紹介した。参加者から哲学対話の実践方法について様々な質問が出て、実際に哲学対話をやってみたい、という意見が多く出た。それを受けて、以前から学校での哲学対話の導入に取り組んでいる「一般社団法人 子どもの成長と環境を考える会」が主催となって、教育現場の主役である教員と生徒向けの「特別研修会(実践編)」を実施した。
当日は事前の参加申し込み者の数を大きく上回り、約80名が研修会に参加した。その内訳は、教職員20名、社会人10名、大学生・大学院生20名、中高生24名、スタッフ6名である。施設の空きスペースを追加借用し、まだ哲学対話を経験したことがない教職員と大学生、社会人の大人の部と、すでに哲学対話の経験がある生徒の多い中高生の部に分かれて研修会を行った。中高生の部には、以前から哲学対話を放課後に行っている東京都立大山高等学校やその他周辺地域の中高生が集まった。中高生の部はすぐに哲学対話をはじめ、大人の部は、まず梶谷氏による哲学対話についての説明・質疑応答の後、哲学対話の実践を行った。
【中高生の部】
一回目は、一緒に対話をしたい大人も交えて二つのグループに分かれて実施した。ファシリテーターは、毎月大山高校にて哲学対話を実施している堀越耀介氏(早稲田大学)と今井祐里氏(上智大学)が担当した。対話のルールの説明と話し合いたい問いを参加者で決め、「哲学(深く考えること)のメリット(意味)は何か」と「何のために勉強するのか」でスタートした。はじめは周りの様子をうかがったり、大人の発言に気圧されたりするような場面も見られたが、次第に生徒たちが積極的に発言し、互いの発言に真剣に耳を傾ける姿が見られるようになった。
二回目は、見学したい教員や大学生に見学してもらうため、中高生だけの対話とした。問いは「なぜ動物を殺せてしまうのか(なぜ人間がえらいのか)」と「正義とは何か」だった。
中高生たちは学校の分け隔てなく対話を楽しんでいた。対話を終えた後、彼らは一気に打ち解け、笑顔で会話するようになった。哲学対話を通して彼らは普段は接点のないお互いを知ることができ、友情をはぐくむきっかけになった。
【大学生・教員・社会人の部】
前半は、梶谷氏が哲学対話について実践例とともに丁寧に説明し、その後で参加者との質疑応答が行われた。学校という場で普段教員と生徒がどのような関係にあるのか、そして学校の授業のあり方についてなど、様々な問題が梶谷氏から提起された。質疑では、現役の教員から、教員同士のコミュニケーションのために哲学対話を導入することの利点や、時間的な制限の中で哲学対話を行うことの難しさについて、質問やコメントが述べられた。
その後休憩時間を取り、大人の部は中高生の哲学対話の様子を見学した。生徒たちが問題について深く話し、対話の楽しむ姿を目にし、驚いている様子だった。
休憩後、約15人ずつの2つのグループを作り、それぞれのグループで哲学対話を行った。
グループ①では、「日本で生まれることは幸せか」という問いについて対話を行った。各々の参加者が自身の幸せについての考えや、幸せだと思う瞬間について具体的に話を進めた。そこから、社会での労働と幸せの関係、環境や国籍、世代の差による幸せに対する捉え方の違いなどへ話が展開した。対話の最後には、自分だけではなく、他者との関係の中で生まれるのが幸せではないかという意見が出てくるに至った。このように、問いが深まるだけでなく、様々な場合を考えながら、広く幸せについて話し合うことができた。
グループ②では、哲学対話を行うための問いとしては、「将来と教育の関係」、「考えるということはどういうことなのか」、「社会と隔離していると本当の自分でいられるか」などが、各参加者から挙げられ、最終的には、参加者全員の合意のもとで、「将来と教育の関係」という問いを深めていくこととなった。参加者たちは主に学校教育の意義を問うような議論を展開し、その過程で、将来と教育の関係性よりは、そもそも「教育」とは何かといったような教育のあり方そのものをめぐる問題系に触れていった。具体的には、いわゆる「教育」を学校という制度のなかで受けるものと、学校以外のところで遭遇する「教育=人生経験」とで分けて考え、人の人格および知の形成において、それぞれがどのような影響を与えているかなどが論じられた。
対話の後、大人の部でも中高生の部と同様に、参加者同士が笑顔で会話する様子が見られた。彼らは哲学対話を通してお互いを深く知ることができ、普段学校で感じている悩みや問題についても話し合いやすくなったようだった。参加者からは哲学対話がとても楽しかったという感想や、今後もっとやってみたいという声が多く聴かれた。学校現場で実際に活躍する生徒や教員によって、今後さらに哲学対話の実践が学校の場に広まっていくであろう。
(文責:八幡さくら)