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【報告】国際力動的心理療法学会(IADP)第22回年次大会(第3日目)

2016.12.08 梶谷真司, 中島隆博, 石井剛, 八幡さくら, 佐藤空, 李範根

私は、国際力動的心理療法学会(IADP)の学会員であり、今回の年次大会の大会事務局長を務めた。大会の3日目、4日目について、私の参加体験を軸に報告したい。

年次大会3日目、午前の大会プログラムは『事例研究発表』であった。「児童期」「青年期」「精神看護」「リサーチ」と4つのセクションに別れ、合計9つの事例研究発表がなされた。私は、そのうちの「児童期」のセクションに参加者として臨んだ。最初の発表は、小学校の管理職者でありながら、心理療法家を目指す雨宮基博氏による「小1プロブレム」と呼ばれる問題を表す児童に対する心理教育プログラムの効果検討の研究であった。雨宮氏が実際に実践した事例の発表であり、学級に馴染めずに行動で問題を表す児童が学級に適応していく変化の過程が丁寧に描かれておりとても興味深かった。第2の発表は、南貞雅氏による発達障害の診断を受けた児童の変化の可能性をシステム境界の視点から検討する研究であった。発達障害の可能性を診断された児童に対する心理療法において、その児童の心の内と外的世界を分ける境界のあり方とそれを調整する心のシステムの働きに介入し、その変化を査定することで、発達障害診断の妥当性と変化の可能性を検討することができるという内容であった。私自身、発達障害疑いのある児童との心理療法に取り組む中で、必ずしも発達障害と言わなくてもよい事例に多く接している。そのことをデータで示すために、境界の視点からデータを取り出すことが役に立つという発表は刺激的であった。

午後の最初のプログラムは『訓練ワークショップ』であった。参加者一人一人が自分の心理療法の面接技法・技術を磨く、まさに「訓練」の時間である。この技法・技術の「訓練」は心理療法家が欠かしてはならないものである。当日は6つのワークショップが開催された。その内、今年度の大会の特色あるワークショップとして、中国皖南医学院附属蕪湖市第二人民病院臨床心理科の李江波先生と東京大学石井剛先生(UTCP)による『中国老荘思想の危機介入』、また大会会長橋本和典先生と中国中山大学心理健康教育カウンセリングセンター主任の李樺先生による『キャンパスにおける危機介入』が行われた。大会テーマそのものである、「危機介入」を軸として、中国と日本、さらに中国哲学と心理療法をつなぐ2つのワークショップ開催には、事前準備や招聘に当たって東京大学大学院総合文化研究科・教養学部付属共生のための国際哲学研究センター(UTCP)上廣共生哲学寄付研究部門のご尽力があった。大会事務局長としてこの場を借りて改めてお礼を申し上げたい。

私は、学会理事長の小谷英文先生の「危機介入ワークショップ」に参加した。事前課題として心理療法自験例における困難場面の実際の逐語を持参することが求められ、当日は2人組でその場面を再現しながら実際にその場で介入してみるロールプレイに何度も取り組んだ。心理療法の困難場面にセラピストの危機があり、患者の危機を理解する糸口があるという内容であった。患者/クライアントの発した一言の中には、文字にすればたった一言なのだが、そこには彼らのたくさんの体験と、今危機を表さなければならなくなった歴史が詰まっている。それらを理解するために、一言の瞬間に留まり、分析理解していく介入の技法・技術をその場で磨いていく訓練であった。うまくいかず悔しい思いもしながら、繰り返し取り組んで少しずつであるがコツを掴んでいく厳しさと楽しさがそこにあった。

午後の後半のプログラム、Edward Pinney記念講演では、戦争PTSDの心理療法がご専門であるDr. Ralph Moraによる講演『危機介入』が行われた。トラウマ(心の傷)を負った人々がどのような症状を呈し、その人達の危機に対してどのような治療的介入が可能か、特に集団精神療法が彼らに役立つということが実際の事例も交えて語られた。人生において誰もが大なり小なりトラウマを負う中で、トラウマを乗り越えることでその人の心の柔軟性(レジリエンス)や心の力が成長するということをMora先生は我々に伝えた。

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文責:花井 俊紀(第22回年次大会事務局長/PAS心理教育研究所)

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