【報告】宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校訪問(第2日目)
【2日目:3年生との哲学対話】
2日目は、午前中に3年生を対象に講演と哲学対話が行われた。まず、梶谷先生による講演においては、哲学という営みが何であるか説明があった。梶谷先生は哲学を「わからないことを増やしていく」活動であると説明したが、その説明を聞いて、生徒たちはすぐ頷いており、哲学のイメージを比較的わかりやすく捉えられたようであった。哲学という営みについての話がなされてから、共同作業を通して哲学を実践する活動である「哲学対話」についても説明が行われた。その後、実際に「哲学対話」を体験する時間が続いた。
まず、哲学対話を経験するための訓練として、4人を1組にして、質問ゲームを行った。約3分間、与えられた問いを題材に、3人がひたすら質問をし、1人がそれに答える作業を交代しながら続ける。この日の問いは、「一人になりたい時ってどんなとき?」であった。質問をすること、それから、それに対する答えをすること。それを繰り返すだけで、生徒たちは、自然に哲学対話を経験するための準備をすることになる。
質問ゲームの終了後、哲学対話のルールなどを説明した上、3つのグループを設け、哲学対話の行うための体制を整えた。生徒のみならず、先生も含めて、1グループあたり、約13人が配置された。グループ分けをした後に、梶谷先生、八幡さくら氏、報告者(李)が哲学対話のファシリテーターをつとめ、本格的に哲学対話の実践に入った。
各グループでは、自分たちで考えたい「問い」をいくつか取り上げてもらい、最終的には投票を通して、一つの問いだけを選定した。選ばれた問いは、次の3つである。
① 死んだらどうなるのか?
② ゲームのなかに入られるのであれば、何になりたいのか?
③ どんな超能力を持ちたいのか?
報告者がファシリテーターをつとめたグループでは、②の問いが選ばれた。最初は、みんなどのように発言すればいいのかわからないため、一番目の発言が出るまでは、少し時間がかかった。しかし、時間が経過するにつれ1人、2人ずつ、発言するようになった。対話が進行するなかで、ゲームのなかに入って何かになりたいのかという問いに関するやりとりよりは、「そもそもゲームのなかになぜ入りたいのか」をめぐる問題が活発に議論されるようになっていった。それについて、「実生活はリセットできないが、ゲームならいくらでもできるから」、「ゲームのなかでなら、いろいろできそうだから」などの答えがあり、やがては、実生活における自由度、特に「学校生活における規制と自由」の方に話が広がっていった。
話題が広がっていくなかで、報告者がそれほど対話に介入しなくても、参加者たちによって(まだ不慣れながらも)対話が進行していくことを見ながら、対話が深まる可能性を幾度も感じていた。今度、哲学対話を重ねていくことができれば、より多様な議論が可能になるであろう。
今回は、時間の関係上、対話の振り返りの時間を持つことができず、実際どのような感想を抱いたのかを聞けなかったことが残念に思えた。報告者としては、対話の経験が、なんらかの形で、彼らの思考をより深める触媒になれたらと、心より願う。またいつか、彼らとの出会える際には、報告者もより熱心かつ誠実に、対話に臨みたいと思う。その瞬間が訪れることを、楽しみにしたい。
文責:李根範(東京大学大学院・UTCP)