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【報告】『共生への道と核心現場―実践課題としての東アジア―』にむかって

2016.09.02 中島隆博, 石井剛, 川村覚文, 筒井晴香, 佐藤空, 金景彩, 李範根, 石渡崇文, 小林康夫, 金杭, 前田晃一

さる2016年7月29日、東京大学駒場キャンパス18号館4階コラボレーションルーム4において、「UTCP Lecture Seriese on Kyōsei Philosophy 2016-2017『共生への道と核心現場―実践課題としての東アジア―』にむかって」が開催された。

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本講演会は、延世大学教授の白永瑞氏の著書『共生への道と核心現場―実践課題としての東アジア―』の出版記念イベントである。講演者の白氏が遅れて来られるアクシデントがあったため、白氏の著書の解説を書かれた中島隆博氏による導入的説明が、白氏が到着されるまでの間なされた。中島氏はまずUTCPと白氏との10年にわたる関り合いに触れられつつ、韓国から東アジア史や東アジア共同体、そして国家の問題を語るのは決して容易なことではないにもかかわらず、東アジアと国家の問題について語るということをUTCP=駒場において白氏にはしてもらってきた、ということを強調された。そして、その際に重要なテーマとなるのが「核心現場」ということであり、これは済州島、香港、沖縄、そして福島といった近代国民国家の問題が凝縮された場所のことをさすのである、ということであった。

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続けて、東京大学の王前氏と青山学院大学の小林康夫氏による、白氏の著書へのコメントがなされた。王前氏は、まず白氏の著書が、東アジアについて語れることの現時点でのピークを示していると指摘された。そして、現代中国における批判的知識人(葛兆光・許紀霖)とみなされている人々への白氏によるラディカルな批判が、核心現場への視点によって担保されていることや、台湾が北東アジアと東南アジアをつなぐオリジナルでユニークな地位を占める可能性をもつという白氏による指摘への共感、さらには朝鮮半島の統一に関してそれを複合国家として捉えようという白氏の構想の重要性などを、王氏は述べられた。さらには、王氏は、歴史家としてイデオロギーにとらわれず等身大の中国を捉えている事こそが、白氏の偉大な点であると指摘された上で、現在中国において人気を得つつある、新天下主義というあたらしい中華思想的東アジア秩序構想にたいして、白氏が批判をされていることへの共感を述べられた。しかし、それと同時に、最後に白氏によるアメリカ帝国主義・資本主義への批判に対して疑問を提示され、コメントを終えられた。

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また、小林氏は白氏の新刊書が日本語のものでしか出版されていないことを指摘され、これは中島・小林両氏と白氏との友情によって本書の出版が実現されたということを示しており、これこそがまさにUTCPが目指すところの共生である、と主張された。それは、言説の壁を友情で超えるということである、とのことであった。さらには、本書に収められているインタビューを一読することで、白氏がどのような人生を送られてきたからこそ、核心現場に関するこのような本が書かれたのだ、ということが理解できるということを指摘された。そしてそれは、自分の実存か出発して研究することの一つの実例として、理解されうるものであろうと主張された。以上のように述べられた後、白氏の著書にたいして、小林氏はどのように向きあうことができるのか、自問された。それは、フランス哲学の専門家である氏にとって東アジアとは何か、歴史(学)とは何か、という問いであるということであった。

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以上のコメントの間に、白氏が到着され、それぞれのコメントに対して応答をされた。全体的な応答として、今回の出版はUTCPと延世大学国学研究院との多年に渡る交流のおかげであると述べられた。そして、小林氏への応答として、まず多年の交流において自身と小林氏との思考回路の違いを確認しつつ、それによって大いに刺激を受けてきたと述べられた。そしてその違いとは、白氏はヒューマンで近代的な展望もち未来への希望を持っているが、小林氏はポスト・ヒューマンな展望を持ち未来への悲観的な認識をもっていることである、と指摘された。そして、白氏にとって歴史学あるいは「歴史をする」とは変化の感覚を実感・経験することであり、またそれと同時に歴史を作っているという感覚であるが、これからの課題はこのような経験を持たない人といかに感覚を共有できるかということだ、と述べられた。これらは、論理の下に隠れている魂の問題である、とのことであった。次に、王前氏への応答として、複合国家構想こそが、韓国による北朝鮮の一方的な統一といった構想を超えたより現実的な考えであることを強調された。そして、中国研究者にとって白氏の視点が重要という評価は大変嬉しいと述べられたが、それはなぜなら、(中国の)外化の視点というだけでなく、東アジアにおける韓国の位置・経験から白氏の視点が規定されているということをちゃんと理解してもらえていることになるからだ、と指摘された。そして、二重の視点ということの重要性を強調された。それは、最近の中国言論界も二重の視点を主張してきており、その議論は周縁へと視点を向けることで中心を豊かにさせようという、あくまでも中心主体の議論だが、それにたいして白氏にとっての二重の視点とは、周縁が主体となって中心を変えていこうという議論であり、これこそが最も重要な事であると主張された。その意味で、朝鮮半島は重要であり、東アジア現代史を理解するための媒介である、と述べられた。

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このあと、ディスカッションは参加者全体へと開かれ、そこでも様々な議論がなされ、盛況のうちに本講演は終了した。

文責:川村覚文(UTCP)

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