【報告】2016年度 高校生のための哲学サマーキャンプ(2)
2016年7月29日(金)と30日(土)の二日間にわたって、国立オリンピック記念青少年総合センター(東京・参宮橋)および東京大学駒場キャンパス 21 KOMCEE West 303において、「高校生のための哲学サマーキャンプ」が開催された。
二日目は駒場キャンパスで朝から開催された。
【第3セッション】
まず午前中は、それぞれ違う課題文を選んだ高校生が集まって小さなグループを作り、各自が前日に作ったストラクチャーを見直すことから始まった。梶谷先生からの説明後、約4名の高校生とチューターの大学院生2人が一つのテーブルを囲み、高校生が自分のストラクチャーについて発表した後、他の高校生や大学院生が質問やアドバイスを行うという形で検討が進められた。自信が無さそうに発表しながらも、質問を受けて一所懸命に説明する高校生や、逆に自信満々で発表したが、質問や指摘に自らのストラクチャーの問題に気づき、ショックを受けている高校生もいた。高校生たちは、単に課題文を理解するのではなく、自ら問いを立てて議論を組み立てることの難しさを痛感しているようであった。同年代の高校生たちは、お互いのストラクチャーに対して、時に鋭い指摘や時に厳しい質問を投げかけ、互いの考えていることを理解し、より良い内容を作り上げようとともに悩んでいた。その真剣な姿は、チューターの我々にとって嬉しい驚きであり、自身の論文への向き合い方や友人との議論を反省させられるものであった。
【第4セッション】
昼食の休憩を挟んだ後、午後からはストラクチャーの修正と発表を行った。各自が午前中の検討を踏まえてストラクチャーを書き直した。高校生たちは集中して自分の問題関心や構成に向き合ってストラクチャーを作り直していた。その後、約10名のグループを三つ作り、それぞれのグループ内で2分間でストラクチャーを発表し、質疑の時間を3分取った。短い時間で要点を発表することの難しさを痛感している高校生も多かった。質疑では、同じグループの高校生や院生から具体例や反論について様々な質問が行われ、発表者がそれに対して自分の意見を明確に説明しようとする努力が見て取れた。仲間が発表していると熱心に耳を傾け、思ったことを率直に質問する彼らの姿から、お互いの意見や問題意識を理解しようとする姿勢が伺えた。彼らの問いから構成されたストラクチャーの内容は、我々チューターには思いもよらない視点から議論が展開されることも多く、さらに聞いてみたいことやもっとこう考えてみたらどうだろうかといった質問が次々に浮かんできた。キャンプの始まった段階から比べると、彼/彼女らが長時間自分自身の問いに向き合い、考え続けたことで、構成の完成度が確実に高まっていることがわかる。
【閉会式】
閉会式では、北垣先生から2日間熱心に参加してきた高校生たちへの激励の言葉が送られた。会の後、「これまでこんなに敗北感を味わったことはない」と言いに来た高校生もいた。敗北感を味わうこと、問うことや議論することの難しさを体感したということは、彼らがこの二日間本気で課題に取り組んだゆえの成果である。今後もその思考を続けていくことで、説得力のある魅力的なエッセイが書けるようになるはずだ。
高校生たちはキャンプ後も情報交換をし、連絡を取り合おうと提案していた。このサマーキャンプは、全国から集まった同世代の高校生たちが同じ時間を共有し、ともに課題に取り組むことに大きな特徴がある。自分と同じ歳の人間が何を考え、何を問うのか、どんな文章を書くのかということを常に隣で経験する。自分の問いや考えを明瞭に説明し、他人の考えを真摯に聞いて問いかけるということ、このような状況は、実は普段の学校生活ではあまりない。サマーキャンプは、考えることや聞くこと、書くことに時間をゆっくりかけることができる貴重な時間だ。同年代の高校生が集まって互いの考えを理解しようと質問し、ともに思考を深めていくこと、このことがお互いの刺激になり、彼らの問いをブラッシュアップさせていったのだ。
彼らは、今年だけでなく去年の参加者とも繋がって、「哲友」の輪をどんどん大きく広げていくようだ。今後も高校生たちは自分の問いと向き合い続けることになるだろう。思考を深め、文章を書く作業は自分との闘いであり、時として孤独である。しかし、自分独りで考えているのはなく、ともに過ごした仲間がいて、彼らも同じように考え続けているということを知っていれば、これから前に進むための勇気になる。キャンプに参加した高校生たちはこれからも自分の問いを追求していくに違いない。若き哲学者たちの眩しい姿に魅せられた夏であった。
文責:八幡さくら(UTCP)