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【報告】「共生のための障害の哲学」第18回研究会 講演「幻聴妄想かるたとハーモニー」&ワークショップ「作ってみようみんなのかるた。」

2016.02.15 石原孝二, 井芹真紀子, 共生のための障害の哲学

 2015年10月14日、東京大学駒場キャンパスにて「共生のための障害の哲学」第18回研究会として、新澤克憲氏の講演「幻聴妄想かるたとハーモニー」、およびワークショップ「作ってみようみんなのかるた。」が開催された。

 前半は就労継続支援B型事業所ハーモニー施設長の新澤克憲氏による講演が行われ、ハーモニーの活動内容や「幻聴妄想かるた」が誕生した経緯についての紹介がなされた。新澤氏の他、ハーモニーの利用者の方々にも多くの参加・発言をいただき、和やかな雰囲気の中にも非常に濃密な時間を持つことができた。

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 ハーモニーは障害者の「就労継続支援」を行う事務所であるが、1995年民間の共同作業所としてスタートしてから一貫してその活動内容を作業や就労よりも生活支援や仲間作りに置いている。設立当初から精神障害と身体障害の両方を持つ重複障害の人たちや作業の難しい人たちを受け入れる場所作りを目指し、「あえて『居場所』にこだわること」を大切にしてきたという経緯の紹介が新澤氏からなされた。作業性において「できる人」「できない人」を作り出すような空間としてではなく、逆にそのような施設や環境からはじき出されてしまった人たちの「居場所」となるべく、常に「間口を広く、敷居を低く」しておくというハーモニーの理念が、深く印象に残った。

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 「幻聴妄想かるた」は、そのようなハーモニーという(居)場所において最も大切な活動のひとつであるメンバーミーティング「水曜グループ」から生まれて来たという。参加者はその時々の近況報告や困りごとなどをミーティングでことばにすることを通じて、他のメンバーとその体験を共有する。そこで語られ、共有されたことばをもとに、本人だけでなくメンバーや職員など複数の人が共に絵を描く。「ないこと」にされてきた経験や感覚が、かるたという確かに存在する「かたち」になるのだ。かるた大会を通じて、体験談をさらに多くの人に向けて繰り返し語り、共有する。その過程で生活上の困難が明らかになるだけでなく、最初のストーリーが少しずつ変化し、抱えている困難の解決や軽減につながるという。

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 講演の最後に新澤氏から、「幻聴妄想かるた」とは「集合知」であり、「集団の記憶・記録」であるという提示がなされた。それは「ないこと」にされてきた〈わたし〉の体験や感覚がここに確かに存在するという承認の形式であると同時に、仲間同士での共有やフィードバック、語り直しを通じてそれを〈集団としての〉記憶・記録へと変容させることで、〈わたし〉と困難との間に生き延びる為の「距離」を確保することを可能にする取り組みであるようにも思われた。そのような他でもない〈わたし〉=「当事者」の経験であると同時に、「集団の記憶・記録」でもあるような経験や感覚を共有してくださった新澤氏およびハーモニーの皆さんに心より感謝申し上げたい。同時に、この場で共有された「わたし=集合知」に対して、これらの営みを「当事者性」に還元したり、その語りを一方的に消費・収奪することなく、アカデミアがどのように向き合うことができるのかと報告者自身、深く自問する会となった。


報告:井芹真紀子(UTCP・東京大学大学院博士後期課程)

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