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【報告】 2015年度 駒場祭「こまば哲学カフェ」[1/3]——(1)初日編

2016.01.15 梶谷真司, 土屋陽介, 水谷みつる, 神戸和佳子, 阿部ふく子, 安部高太朗, Philosophy for Everyone

 2015年11月21日(土)から23日(月・祝)まで第66期 駒場祭が東京大学駒場キャンパスにて開催され、今年もP4E研究会のメンバーを中心に「こまば哲学カフェ」を企画しました。年をまたいでしまいましたが、その模様をご報告いたします。今回は、第1回目として、初日の様子をお伝えします[1/3]。

 まずは、今回のこまば哲学カフェのラインナップをご紹介しましょう。
初日(11/21)
09:00-10:00 Prologue: 「せっかくコミュニティーボールを作るんだから、キレイに作ろう!」(企画:山村 洋)
10:00-12:00 Session 1: 「モノのみかたの哲学・モノのみかたは哲学?」(企画:山村 洋)
13:00-15:00 Session 2: 「「記念日」をめぐる哲学対話―愛・誕生、記憶・忘却―」(企画:上智大学哲学対話研究会[ディアロゴス])
15:30-17:30 Session 3: 「目隠し対話 〜恋は盲目? 恋に終わりはあるの?〜」(企画:豊 昌樹;川口 茜)

二日目(11/22)
10:00-12:00 Session 4: 「出張!!SPA」(企画:St.Paul's Agora [立教大学])
13:00-15:00 Session 5: 「開智学園ありとぷら」(企画:開智中学・高等学校ありとぷら)
15:30-17:30 Session 6: 「Death Cafeこまば」(企画:水谷 みつる)

最終日(11/23)
10:00-12:00 Session 7: 「子どもの/で哲学」(企画:安部 高太朗)
13:00-15:00 Session 8: 「におって、話そう」(企画:古賀 裕也;堀 静香;永井 玲衣;今井 祐里)
15:30-16:00 Session 9: 「てつたん!~哲学対話×短歌のこころみ~」(企画:廣川 千瑛)
 *なお、Session 9については駒場祭全体の終了時間を勘違いしていたこともあったのですが、16時をもって終了せざるをえませんでした。

 以下、初日の様子をそれぞれの企画者の方にご報告いただきます。


Prologue: 「せっかくコミュニティーボールを作るんだから、キレイに作ろう!」(企画:山村 洋)
——11/21(土) 09:00-10:00

 これは、駒場祭の打ち合わせの時に、研究会のメンバーから「最初にコミュニティーボールを作ろう」というアイデアが出てきたことが、きっかけでした。
 コミュニティーボールがキレイに出来るかどうかは、いつも運まかせで、あまりキレイのものがないと、前々から思っていたことから、「せっかくならキレイに作りませんか?」と、僕が提案したことから、今回の企画が始まりました。

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 そもそも何がキレイかの話はさておいて、コミュニティーボールをキレイにつくるには、形のバランスと配色を整えることが必要で、そのための毛糸の巻き方と、配色のルールがあります。配色の組み合わせは、僕が二種類の組み合わせを考え、巻き方のルールを最初に説明してから、少し作り方の違う二組に分かれてもらって、参加者に作ってもらいました。
 あと、コミュニティーボールの大きさを確定し、合理的に毛糸を巻くための芯として、事前に考案、制作した、使いやすく簡単に手に入る段ボール製のものを、使用してもらいました。

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 コミュニティーボールは、もともとは対話の導入の時に作るもので、今回の作り方はそのルールに沿わないやり方になり、駒場祭はこれで構いませんが、導入時に作るための方法を、もう少し検討するべきだと思いました。
 あと、完成してから考えたことですけど、巻き方は今回の方法が、現状では理想的だと思っていますが、配色の組み合わせに関しては、他にもバリエーションがありそうで、機会があれば実践していみたくなりました。

 結果、完成したコミュニティーボールは、二つとも大成功だと言っていい出来栄えだし、作り方も特に難しくはなっていないはずです。なので、今後はキレイなコミュニティーボールが広まれば良いと思います。

(山村 洋)


Session 1: 「モノのみかたの哲学・モノのみかたは哲学?」(企画:山村 洋)
——11/21(土) 10:00-12:00

 僕の仕事が服装に関係していることが理由でしょうけど、その人の知識や経験と、モノのみかたとの関係には、もともと強い関心があり、哲学対話とを組み合わせて、何かイベントに出来ないかと思い、今回の企画をしました。知識を得て、作る経験をすることによって、新たな気付いたモノのみかたを、対話形式で発見してもらうことがコンセプトです。

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 時間が膨大にあれば、実際に布で洋服を作ってもらっても良いと思いますが、二時間という制約の関係もあって、サッカーボールなどの、平面の素材を組み合わせることによって球体が出来るモノを題材にし、紙の展開図から立体の球体を作ってもらうことにしました。
 これは、同じ形に至る構造のバリエーションが多いことや、以前から、フェルト素材で様々な構造のボールを作っていたので、それを活用できることも、理由としてあります。でも、ボール全体を題材にしてしまうと、卓球や砲丸など全く作る工程の違うものも含まれるので、少しボールの条件を狭くさせていただきました。

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 最初に、対話の導入として「ボールについての記憶や思ったこと」などを、参加者に話してもらい、スライドで、平面素材から球体を作るための理論や、実際に存在するボールの展開図のバリエーションなどの解説と、合わせて僕が作ったフェルト素材のボールを見ていただきました。続いては、球体の紙工作の時間で、それなりに力加減にコツが必要な作業ですけど、皆さん上手に出来たと思います。

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 その後、これらの解説によって新たに気付いたことについて対話していただきました。
 ここで、問い出しをするという選択肢もありましたが、あえてそのまま対話の時間にしました。

 一時間程度の解説では、新たな気付きなどないことや、構造の解説が専門的すぎて、参加者には理解不能な可能性もあり、そもそも対話にならないことも、ある程度は想定していましたが、それぞれのモノのみかたはあるようで、企画者、ファシリテーターとして、とても興味深い対話になったと思います。
 作ることを含めたクリエーションと、哲学とは相性が良いと思うので、僕の専門分野に限らず、クリエーションと哲学対話との組み合わせが、いろいろと発展させられれば良いと感じました。

(山村 洋)


Session 2: 「「記念日」をめぐる哲学対話―愛・誕生、記憶・忘却―」(企画:上智大学哲学対話研究会[ディアロゴス])
——11/21(土) 13:00-15:00

 11月21日午後の哲学対話は「記念日をめぐる哲学対話」。参加者は20名ほど。前半では導入として、様々な記念日を列挙してもらうことからはじめた上で、問いとしては「なぜ記念するのか」、「記念日の役割とは何か」を問うことから始めた。まずは、記念日を制定することによって、非日常と日常を区別し、非日常の中に記念すべき出来事の価値を改めて認識するという役割があるのではという話に。ところが、非日常と日常を区別するだけであれば、なぜ「日」でなくてはならないのか、「月」や「年」それどころか、「場所」にその役割を見出して意味づけしてもよいのではないかという意見が出た。つまり「日」が重要なのではなくて、記念するところの「出来事」そのものが重要なのでは、という指摘である。しかも記念日は、厳密な意味では、もはや出来事が起きた日の「複製」に過ぎない。そこで、結果として「日」に限定することの意味は、記念するのには一年周期くらいがちょうど都合がいい、また、単に他者と共有しやすいからというプラグマティックな理由からではないかという対話に落ち着いた。全体として、「記念日」それ自体が重要なんだ!という方向に話がいかなかったのは意外でもあり、興味深い点でもある。

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 後半では、前半までの議論を踏まえて、より具体的に「愛」と記念日の関係について、前半からの参加者に、後半からの新規の参加者若干名を加えて、対話を続けた。問いとしては、「結婚記念日や付き合った日はなぜ記念しなくてはならないのか」、になった。つまり二人の間に愛情関係が成立しているにもかかわらず、なぜ過去にその関係が成立したということ(あるいはその日)が現在の愛と関係性をもつのだろうかという問いである。この後半の対話は時間の関係もあって、十分に深めることができなかったが、前述のような問題意識を共有できた点や、より個々人の具体的な実感と合わせた対話ができた点で、とても良い対話になったのではないかと思う。

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(堀越 耀介)


Session 3: 「目隠し対話 〜恋は盲目? 恋に終わりはあるの?〜」(企画:豊 昌樹;川口 茜)
——11/21(土) 15:30-17:30

 「目隠し対話」の企画の発端は「視覚障害者と一緒に映画の音声ガイド制作」のワークショップに何度も参加した経験からでした。駒場祭では参加者が福祉に関心のある人だけにならないように、特別な企画説明と問いの設定はしないことにしました。哲学対話において「聴く」ことの重要性を意識せざるを得ない設定として「目隠し」での対話をシンプルに試みました。

 二時間の構成は、「目隠し対話」+「目隠しを外しての振り返り(コミュニティボール使用)」を1セットとし、休憩を挟んでの2セット。30分以上アイマスクを着用したままでいることを避けることとしました。参加人数は声が届く距離と騒音を考慮して10名までとしました。参加者は教室の外でアイマスクを着用し、ひとりずつ室内にスタッフが誘導して着席。室内には席を円に配置。教室の外で事前説明として、タイムテーブル、何かあれば挙手、アイマスクが苦しい際はいつでも外して可、途中退出可等の確認後に参加していただきました。BGMは無し。全員着席後、進行とルール説明。アイスブレイクとしてコミュニティボールを隣の席の人に渡して一周、恋愛にまつわる好きな楽曲をひとりずつ発言。
「恋のはじまりとは?」の問いで対話開始。
他の参加者を目視することなく対話を始めた前半の緊張感に対して、休憩後に参加者同士がお互いを目視してからの後半では明らかにリラックスした空気で対話が進みました。発言者の声が重なったとしても自然に譲り合って対話は進行しました。アイマスクを外した瞬間は照明が眩しいので、対話終了(アイマスクを外す)の5分前に照明を弱めました。

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 対話内容は、「恋の始まり」「一目惚れ」「2次元・2.5次元の恋」「恋と恋心の違い」「高齢者の恋」「恋は育つのか育てるのか」など。ファシリテーターが進行上で注意した点は、沈黙に介入し過すぎずに待つことと、発言の間合いが早くなりすぎないように間合いを取ることでした。

対話後の参加者の感想
・他者の顔色を気にせず話しやすかった。
・目を見て話すほうが話しやすいことを認識した。
・発言者の位置が予測不能でどこから声が聞こえてくるか最初は戸惑った。
・眠くなった。
・時間が短く感じた。
・入り口でアイマスクを着用して誘導されて入室する緊張感が良かった。
・席の向きや位置をバラバラにするなどもっと不安定設定があってもよかった。
・普段は照れくさい恋愛ネタを想像以上に発言できた。
など。

 駒場祭外での模擬対話では、アイマスクを着用時のアイスブレイクとして「名前順に並ぶ」「生まれ月順に並ぶ」「じゃんけん」を試みました。誘導時間の都合で本番では実施しませんでした。

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 目隠し対話は自由参加設定でなければ配慮をかなり要しますが、安心できる場と関係性であれば、「聴く」「見る」「話す」「距離」の相互作用と感想の個人差を簡単に認識し合うことができておもしろいと思います。誰にとっての「配慮」「セイフティ」なのか、参加人数や対話の輪の数など、もっと「話しにくい」「聴きにくい」設定でも対話を実践しあってみたいです。

(豊 昌樹)

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