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【報告】UTCP対話の会「ミャンマーの現在の風——レ・レ・ウィン教授に訊く ——」

2015.11.16 小林康夫, 内藤久義, 菊間晴子

2015年11月7日(土)16時より、東京大学駒場キャンパス101号館研修室にて、UTCP対話の会「ミャンマーの現在の風——レ・レ・ウィン教授に訊く——」が開催された。この会は、ヤンゴン大学哲学科教授であられるレ・レ・ウィン氏の来日に合わせて、ミャンマーの現在の状況について氏からお話を伺うと共に、参加者との間で多様な観点から対話を行うことを目的として企画されたものであった。

ウィン氏は東京大学総合文化研究科で博士号を取得された経歴の持ち主であり、2014年2月にヤンゴン大学で行われたシンポジウム “Co-existence in Asian Thought” にもご尽力いただいた方である。司会を務めた小林康夫氏(東京大学名誉教授)をはじめ、ウィン氏のかつての指導教官である松岡心平氏(東京大学教授)、ミャンマー研究の第一人者である田村克己氏(国立民族学博物館名誉教授)ほか、氏と親交のある方々にもご出席いただいたこの会は、終始和やかな雰囲気で進行した。

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ウィン氏の講演は、「ミャンマーの現在の風」について、政治・経済・教育等、様々な側面から考えるものであった。まず政治の面において、いまミャンマーは重要な変革の時を迎えていることが語られた。奇しくも、この会が開催されたのはミャンマーにおいて2011年の民政移管後初めてとなる総選挙が行われる前日だったのである。軍事政権の流れをくむ与党・USDP (連邦団結発展党)と、民主化を目指すアウン・サン・スー・チー氏率いる最大野党・NLD(国民民主連盟)との間で行われた選挙戦は大きな盛り上がりを見せた。氏は、たとえ今回の選挙でNLDが勝利したとしても、軍事政権下で制定された現憲法の規定等の障壁が未だ存在するゆえに、国民の願いである民主化が実現するかどうかは定かではないものの、これを機にミャンマーの政治的状況は確実に大きく変わると考えられていると述べた。

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教育の面でも変化が起こっている。本年、国会において新たな教育制度が公認され、大学における学問的・経済的自由が認められた。それに先立って2013年には、ミャンマーにおいて特に歴史のある二つの大学———ヤンゴン大学及びマンダレー大学———が、およそ20年ぶりに学部生の受け入れを再開した。それまでこれらの大学における学部教育は、反政府的な学生運動を恐れた軍事政権により停止されたままだったのだ。このようにミャンマーでは、国際的な教育水準を目指す試みが始まりつつある。しかしながら、法律上認められてはいても大学における自由は未だ獲得されていない状況であり、その実現には多くの課題が残されていることが、氏の口から語られた。

経済面では、今夏に発生した大規模な洪水によって甚大な損害をこうむり、また国内における貧富の差の拡大も問題となっていることが述べられた。ウィン氏は他にもいくつかの統計資料を用いながら、国民の信仰する宗教・人口・生活水準など、ミャンマーの現況を参加者に提示した。

質疑応答において多くの質問が寄せられたのは、ミャンマーの国民のうち9割近くが信仰しているという仏教(上座部仏教)に関してであった。仏教がそれほど広く深く信仰されているのであれば、仏教思想を根幹にして民主化運動が進んでいかないのはなぜか、あるいは仏教思想が経済格差の是正へと繋がらないのはなぜか、といった問いが出され、活発な対話が展開された。また、ミャンマーにおける「ナッ」と呼ばれる精霊信仰も参加者の関心を集めた。仏教とはまた別に民衆の生活に根付いた「ナッ」信仰のあり方について対話するなかで、日本に仏教が受容されていく過程で生まれた「後戸の神」との連関も指摘された。さらに、ミャンマーにおける仏教僧の政治的・社会的位置づけや、女性の地位、古典芸能や若者文化に至るまで、話題は多岐に及んだ。

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レ・レ・ウィン氏をお迎えして開催されたこの対話の会において、報告者自身これまであまり身近には感じることのなかったミャンマーという国の現状について学ぶと共に、いまそこに確かに吹いている変革の風を感じとることができたように思う。とりわけ印象的だったのは、ミャンマーにおいて決して地位が高いとは言えない女性達の、学びに対する意欲であった。(およそ20年ぶりにヤンゴン大学に入学した学部生の多くは女性であったという。)

11月8日に実施された総選挙は、NLDの大勝という結果となり、政権交代が見込まれている。未だ多くの困難を抱えながらも、まさに “Time to Change” を迎えているミャンマーについて知り、共に考える貴重な機会を与えてくださったウィン氏に、感謝を申し上げたい。

文責:菊間晴子 (UTCP・東京大学大学院博士課程)

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