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【報告】第1回「未来をつくる哲学対話〜ザ・フューチャー・トーク (TFT)〜」 (後編): TFT企画者 土屋陽介氏による報告

2015.08.23 梶谷真司, 小村優太, 土屋陽介, 神戸和佳子, 榊原健太郎, 阿部ふく子, 安部高太朗, Philosophy for Everyone

2015年8月2日(日)、東京大学駒場キャンパス21KOMCEE 303を会場に、第1回「未来をつくる哲学対話〜ザ・フューチャー・トーク〜」(略称: TFT)が開催されました。企画者の菅拓哉氏と土屋陽介氏による報告を掲載します。後編は土屋氏の報告です。

安部高太朗(UTCP RA研究員/東京大学大学院教育学研究科)

以上の報告にある通り(註: 前編を参照のこと[安部])、中高生と大人が一緒に問いを立てて考える哲学対話イベント「未来をつくる哲学対話~ザ・フューチャー・トーク(TFT)~」の第1回が、盛会のうちに終了しました。参加者はスタッフを除いて34名。中学生以下の参加者は企画者の菅さん一人でしたが、高校生・大学生の参加者は多く、10代・20代を合わせると参加者の過半数以上を占めていたのが印象的でした。駒場キャンパスではこの日の前日まで「高校生のための哲学サマーキャンプ」が行われており、そこに参加していた高校生のうちの何人かも、こちらのイベントにも参加してくれました。

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当日のイベントの様子は、すでに菅さんが報告していますので、私からは、このイベントが開催に至った経緯と、それを通して考えたことを書いてみたいと思います。

今回のイベントを発案・企画したのは菅さんです。菅さんは、私が子どもの哲学(哲学対話)の授業実践を行っている開智学園総合部の中学1年生(7年生)です。ただし、私が所属し哲学対話の授業を行っているのは「中高一貫部」というところで、菅さんが在籍している「総合部」とは別組織にあたるため、私は哲学対話の授業で菅さんを担当したことはありません。開智学園における哲学対話の取り組みについては、次のウェブサイトをご参照ください:http://www.kaichigakuen.ed.jp/tyuukouikkannbu/?page_id=39

しかし私は、菅さんのことを、彼が小学校6年生の頃から知っていました。きっかけは、菅さんのお母さんが中高一貫部での哲学対話の授業にとても興味を持ってくださり、開智学園内で開催した哲学対話の勉強会に参加してくださったことです。勉強会を通してますます哲学対話に関心を持ってくれたお母さんは、私がファシリテーターを務めて東京ウィメンズプラザで開催した親子のための哲学カフェに、菅さんを連れて親子で参加してくれました。これが2014年9月のことで、これをきっかけに菅さん本人もすっかり哲学対話にのめり込むようになり、私が立教大学で定期的に開催している子どもの哲学の研修会にも、中学生ながらしばしば参加してくれるようになりました。

そんな菅さんから、中高生向けの哲学対話のイベントを自分で企画して開催してみたいと相談を受けたのは、新学期が始まってまだ間もない頃だったと思います。哲学対話のイベントに何度も参加する中で、大人だけでなくぜひ自分と同じ中高生と一緒に哲学対話ができる場を作りたい、というのが菅さんの考えでした。そこで、中高生が「誰でも、どこでも、気軽に話し合える場をつくる」「中高生自身がファシリテーターになって、自分たちの課題を考えていく」「そういう場が日本全国に広がり、日常生活の中でも「考える・伝え合う」ことが自然にできるようになる」という三つの目標を掲げて、そのような場作りをするためのイベントを行うことにしました。それが今回の「ザ・フューチャー・トーク」です。

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つまり、「ザ・フューチャー・トーク」は、イベントの名前というよりも、中高生が自分たちだけで作り上げる哲学対話の場(あるいはサークル)の名前と言った方が適切です。そしてその第1回目は、まさに、中高生の、中高生による、中高生のための最初の哲学対話イベントでした。このようなイベントの性格から、共同企画者を引き受けた私は、できるだけ黒子に徹して、可能な限り「何もしない」ことを心がけました。具体的には、会場を探したり、スタッフを手配したり、広報の手伝いをしたりはしましたが、私の主な仕事はこれだけと心得て、テーマややり方などに関してはすべてを菅さんにお任せしました。全体の企画書も菅さんに書いてもらって、私はチェック役に徹しました。先に述べた三つの目標も、菅さんが自分で考えたものです。

最近では、大学でも学生が哲学対話のサークルを立ち上げたりといったような話を耳にすることが増えてきて、授業がきっかけの哲学対話が「哲学カフェ」化してきているのを感じます。これはとてもいい流れだと思っています。本来の哲学対話とは、自分の中に切実に考えたい問題を抱えている人たち同士が、お互いに進んで自分と相手の問題について対話することで、お互いの思考をより一歩深める手伝いをしあうことだからです。子どもの哲学は、学校の中で授業の一環として哲学対話を行う取り組みですが、本当は授業という「強制された環境」は、哲学する上で最も縁遠い場と言うべきなのかもしれません。中高生自身が、大人の都合や大人の関心などにとらわれることなく、本当に自由に、勝手に、自分たちのやりたいように対話し思考する場が、中高生自身の手によって自然に作られ広がっていったときに、本当の意味で哲学が中高生の生活の中に根ざすものになったと言えるように思います。

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菅さんが作成したチラシの中に、「教育が変わるのを待つだけでなく、自分たちにできることをやってみる。そうすれば、きっと未来をより良いものに変えていけると思います」という一文があります。このように考えている中学生がいるということは、それだけで私にとっては大きな喜びでもあり、大きな希望でもあります。必要な協力は惜しみなくするので、中高生には自分たちでどんどん勝手に活動して、自分たちのやりたいように哲学も対話も利用してほしいです。菅さんや他の中高生たちが、「ザ・フューチャー・トーク」をこれからどういう場に育てていくのか、とても楽しみです。


土屋陽介(立教大学兼任講師、開智学園一貫部「哲学対話」担当講師)

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