梶谷真司「邂逅の記録72:新センター長としての所信表明らしき随想」
2015年3月31日、COE時代からUTCPをずっと統率してきた小林康夫さんが退職し、そのセンター長としての任を私が引き継ぐことになった。まずは現メンバーを代表して、あらためて彼の功績に敬意と謝意を表したい。
またUTCPは、2012年にCOEが終了するさい、存続が危ぶまれたが、以来今まで、上廣倫理財団の多大な支援を受け、現在のような多彩で自由な活動ができている。メンバー一同、財団に心より感謝申し上げる次第である。
さて、UTCPは国際的なネットワークと既存の枠にとらわれない挑戦により、研究面でも教育面でも、きわめて特異で先進的な哲学センターとして実績を積んできた。これまでそれは、小林康夫という一人のカリスマを求心力とする多様な運動体として活動し、新しい哲学の姿と可能性を見せてきた。そしてそれに触発され、あるいは導かれ、國分功一郎さん、西山雄二さん、千葉雅也さんをはじめ、現在最前線で活躍する多くの若手研究者を輩出してきた。自由闊達な小林さんは、そんな自由な空間としてのUTCPの象徴そのものであった。ではその小林さんが去った後のUTCPは、どのような形を取るのだろうか。
その方向性は、この3年間ですでに現れてきているように思う。それは、新年にも述べたが、やはりinclusionという語で表すのが、もっとも適切であろう。includeは「含む」、inclusionは「包摂」と訳されるが、ここでは「いろんなものを巻き込んでいく」という意味である。そのさい重要なのは、質的に異なるものが可能な限り対等なものとして関わり合う、そのために可能な限りこれまでの境界を取り払うということだ。UTCPはそのために開かれた場となる。そこには、求心力となるような中心も、牽引力となるような先端もない、あるいはなくてもいい、まとまったり囲ったりすることなく、出たり入ったりも自由・・・そんなイメージを持っている。
それはまさしく共生の理念でもある。文化や社会が異なる者、世代や年齢が異なる者、障がい者と健常者、子供と大人、女と男、動物と人間、機械と人間など、あるいはそのすべてが共にある世界。研究する上でも、専門分野が異なる者、専門家と非専門家が共に参加するスタイル。ただしそれは、調和や平和を連想させるような穏やかな共存ではなく、衝突や対立の可能性をもはらんだ緊張感のある関係であろう。そこで差異や隔たりを解消する必要などなく、それがあちこちにあるからこそ、あればあるほど、互いに関わり合うことで人生も研究もより豊かで創造的になりうる——それがインクルージョンである。UTCPの活動は、それ自体がこのような意味での共生の実践となっていくだろう。
UTCPがそうやって変わっていくのであれば、これまでUTCPに関心をもってイベントに来てくださっていた人たちの役割も変わる。参加してくださる人、応援してくださる人も、もはやたんなるお客さんではありえない。研究や活動の成果をただ受け取るだけの立場ではない。もっと中に入ってincludeされつつ一緒に作っていく、そんな関わりを期待したい。そういう意味で、これから参加・応援してくれる人たちの責任は、今までよりずっと重いのだ。
ということで、みなさん、新しいUTCPも引き続きよろしくお願いします。
文責:梶谷真司(UTCP)