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梶谷真司「邂逅の記録73:第23回国際哲学オリンピック in エストニア(1)」

2015.05.25 梶谷真司

5月14日から17日まで、エストニアのタルトゥで、第23回国際哲学オリンピックが開催された。タルトゥはエストニア第2の都市で、首都タリンが政治経済の中心であるのに対して、タルトゥは古い大学街でもあり、精神的首都と言われる。その意味でIPOを開催するのにふさわしい地である。

今年は39か国、83人の高校生と70人の教員が参加した。日本は15回目、筑波大付属駒場高校3年生の末岡陽太郎君と神戸女学院3年生の田渕あゆさんが出場した。

二人とも受験生でありながら、しかも時期的にも中間テストと重なっていたりする
中での参加で大変だったと思う。しかし、参考文献として私が薦めたラッセルの
The Problems of Philosophyを移動中も読んでいて、非常に積極的で集中していて
感心した。

今回は、飛行機の接続の関係で開始当日ではセレモニーに間に合わないため、
一日早く13日に日本を発ってヘルシンキまで行って宿泊し、翌日エストニアの首
都タリンへ移動した。日本から行くと時差があって負担がかかるため、その意味
でも1日早く行くのは、哲学のエッセイを書かなければいけない高校生にとって
はいいことだ。

翌14日、昼前にヘルシンキからタリンまで飛行機で移動。所要時間30分という
短いフライトだった。到着すると、IPOのボランティアの人が出迎えてくれた。3
時にIPO参加者のためのバスでタルトゥへ出発。2時間半ほどかかって到着し、す
ぐに教員の会合が行われ、今後の大会の候補地等について話し合った。夕方6時
からは、オープニングパーティーが開かれ、教員も高校生も混ざって歓談し、セ
レモニーでは文部大臣や大学総長の挨拶、各国の代表団の紹介が行われた。宿泊
は高校生、教員とも他の国の人と同室で、私はグアテマラの先生と一緒になった。

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2日目、高校生たちは午前中、エッセイ・ライティングをしていて、その間教
員たちはタルトゥ大学の教授、アンドレアス・ヴェンツェル氏とトーマス・ロッ
ト氏の講演を聞いた。続けて評価の方法や基準について議論した。毎年初参加の
先生もいるため、評価を巡っては、繰り返し話し合わなければいけない。このよ
うな基本的なことをそのつど確認するのは、初心に返るという意味で大切だと思
う。

午後はまず大学の見学をした。タルトゥ大学は、1630年に創立された、北欧・
東欧では最も古い大学の一つである。とはいえ、エストニアという国の運命と同
様、政治的にも文化的にも様々な国の影響を受けてきた。開学当初はラテン語で、
その後19世紀末までドイツ語、1919年の独立までロシア語、そのあとエストニア
語による教育が行われた。しかし国家じたいはこの間、ポーランド、ドイツ、ス
ウェーデン、ロシア、ソ連の支配を受けた。

大学の中には小さな博物館があって、そこにギリシャ彫刻のレプリカが所狭し
と並べられている。もともとは本物が所蔵されていたが、ソビエトに接収され、
近年返却されることになったがまだ戻ってきてはいないという。とはいえ、ここ
には、哲学者にとって、きわめて貴重な所蔵品がある。それは世界に2つしか現
存しないとされるイマニュエル・カントのデスマスクである(もともと3つあっ
て一つはベルリン、もう一つは失われた)。

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大学見学の後は、市内を流れるエマヨーギ川をクルージング(といっても天気
が悪く寒かったので、ずっと船室でおしゃべりしていたが)をして、そのあと市
内観光をした。夕食では田渕さんと末岡君にも会い、エッセイを書いた感想を聞
いた。二人とも、満足というほどではなかったようで、多少の後悔は残っている
かもしれないが、まったく経験したことがないことでもあり、十二分にやってく
れたと思う。

3日目、教員は朝9時から夕方4時まで、高校生たちが書いたエッセイの審査を
行った。その間、高校生たちは、午前中に大学見学と市内観光を行い、午後は4
つのテーマごとに部屋に分かれて、グループディスカッションしていた。そのあ
との「全体討論」には、私たちも参加することができた。高校生と同じイベント
に参加したのは初めてだった。テーマは「プロパガンダはリベラルデモクラシー
の国で禁止されるべきか否か」で、世界中の若者たちが一堂に会して熱心に議論
する姿を見るのは、本当に心動かされるものがあった。

4日目は、16時までは自由時間で、高校生も教員たちも市内観光をしたり休ん
だりして過ごした。16時から、大学のメインビルディングで表彰式のセレモニー
が行われた。まずヤーン・カプリンスキー氏の「ニーチェの仮説――ウラル・ア
ルタイ哲学は可能か?」が行われ、続いて表彰式。今年は金メダルをハンガリー
とフィンランドの2人が受賞した。銀メダルが8人、銅メダルが6人、その他の入
賞が19人であった。そのあとは、記念撮影をして、市内のレストランに移動し、
遅くまでパーティーで最後の夜を楽しんだ。

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日本人の二人は残念ながら受賞を逃したが、同世代の哲学好きの友人と過ごし
たこの4日間は、忘れられない経験となったであろう。教員としても、世界中の
高校生たちが一堂に会して、哲学的な問題に関して議論している姿を見ると、未
来を信じる力が湧いてくる。田渕さん、末岡君と、世界中の高校生に感謝したい。
私もまた、各国の先生たちと親交を深めることができ、様々な課題と希望をもら
った。

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文責:梶谷真司(UTCP)

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