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【報告】UTCP-L2・生存学研究センター合同シンポジウム「出生をめぐる知/技術の編成」

2015.03.20 石原孝二, 筒井晴香, 共生のための障害の哲学

2015年2月24日(火)、上廣共生哲学寄付研究部門L2「共生のための障害の哲学」プロジェクトと立命館大学生存学研究センターの合同シンポジウム「出生をめぐる知/技術の編成」が開催された。講演者は宮原優氏(文教大学・非常勤講師/立教大学・兼任講師)、渡部麻衣子氏(東京大学IHS・特任助教)、利光恵子氏(立命館大学生存学研究センター・客員研究員)の3名、全体コメンテイターは松原洋子教授(立命館大学大学院先端総合学術研究科・教授(生存学研究センター))であった。

UTCP・L2プロジェクトと生存学研究センターの連携の計画は、昨年度3月(https://utcp.c.u-tokyo.ac.jp/blog/2014/03/meeting-with-research-center-f/)に立ち上げられた。初の合同企画となる今回、双方にとって関わりの深いテーマである「出生」をめぐり、活発な議論が交わされた。

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宮原氏の発表「不妊治療における経験の形成―『期待』の在り方に見られる経験の構造」においては、インタビューや手記の分析により、不妊治療そのものが期待の惹起を通して子を得ることに対する欲望や規範を強化させている現状が示された。そして、不妊治療において、人間の在り方や幸福の形の多様性が排除されていくことへの問題提起がなされた。

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渡部氏の発表「出生前検査―胎児をみるということ―」においては、出生前検査・診断の現状を踏まえ、出生前検査が胎児の認識の正しいあり方を規定する規範として働いてしまう状況が描き出された。そして、そのような状況のもとで、妊婦自身が胎児について語ることの困難さが論じられた。

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利光氏の発表「日本における受精卵診断導入をめぐる争いの現代史」では、日本における受精卵診断の導入をめぐる歴史と、その中での受精卵診断への意味づけの変化が示された。具体的には「生命の選別」に当たるとして厳格な規制のもとにあった受精卵診断が、流産防止のための不妊治療という位置づけを得ることで普及していく過程が描き出された。

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以上三名の発表を受け、松原教授によりコメントがなされた。松原教授は、今回の各発表が不妊の身体や妊娠する身体に注目しつつも、様々な違和感やつらさ、痛みの生じる身体の現場へと至り切れていないことを指摘した。そして「インペアメントとしての不妊」というキーワードのもとで、妊娠する身体・治療を受ける身体そのものの主題化の重要性を論じ、そのために従来主題化されてきた胎児や卵子等をあえてスルーするアプローチの可能性をも示唆した。講演者からの応答においては、身体経験を問題化することの重要性が改めて確認された。

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その後、フロアとの議論においては、不妊治療において「治る」とはなにか、また今回の議論全体において「多様性の確保」にどのような価値づけがなされているのか、といった点が話題となった。

生殖・出生というテーマを通し、科学技術や医療と規範・価値づけが深く絡み合うさま、そしてその中を生きる身体経験に焦点化することの重要性と困難が浮かび上がった研究会となった。
当日は平日の開催にもかかわらず、多数の方々にご参加頂き、活発な議論をして頂いた。生存学研究センターとUTCP-L2プロジェクトの連携企画の第一回としても、意義深い会になったと思われる。
最後に、講演者・コメンテーターの先生方、ならびに本研究会の開催にあたりご尽力くださった生存学研究センターの皆様に、この場を借りてお礼申し上げます。

報告:筒井晴香(UTCP)

※本研究会については、生存学研究センターFacebookにて、同センター研究員の山本由美子さんからも、以下の通りご報告を頂いております。
https://www.facebook.com/ritsumeiarsvi/posts/1574290752837906

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