Blog / ブログ

 

【報告】2014年度東京大学-ハワイ大学夏季比較哲学セミナー(1)

2014.10.08 梶谷真司, 中島隆博, 川村覚文, 神戸和佳子

2014年8月、東京大学はハワイ大学と共同で夏季比較哲学セミナー(UT-UH Summer Institute)を開催しました。第1回目の2012年はハワイ大学で、第2回目の2013年は東京大学で、そして第3回めとなる今年2014年は再びハワイ大学で行われました。すでに報告いたしました事前勉強会に続いて、今回からは数回にわけて、ハワイでの実際の活動に関して報告いたします。第一回目は神戸和佳子さんに報告してもらいます。

**************************************

2012年に始まった、東京大学とハワイ大学共同の夏季比較哲学セミナーは、今年で3年目を迎え、再びハワイ大学がホスト校を務められた。講師は例年のとおり、ハワイ大学のロジャー・エイムズ先生と石田正人先生、東京大学の中島隆博先生と梶谷真司先生。受講者としては、ハワイ大学から7名、東京大学から10名、アメリカ本土の諸大学から4名と、総勢21名の学生や教員らが集った。今年も上廣倫理財団から格別のご支援を賜り、東京大学の一行は、非常に充実した時間を過ごすことができた。

今年のセミナーのテーマは”place”であった。8月4日からおよそ2週間は、一昨年度同様、オアフ島にあるハワイ大学マノア校での講義を中心としたプログラムだったが、その後の1週間はハワイ島に移り、火山の活動や満天の星など、ハワイの自然を肌で感じながらのプログラムとなった。昨年の”praxis”からさらに進んで、講義・購読・自然観察・散策・儀式の体験といった様々なアプローチを複合的に駆使し、心身不可分に哲学的思索を深めていくこととなった。

8月4日のセミナー初日、午前には、ネイティヴ・ハワイアンの生物学者サム・ゴン3世博士によって、オープニングセレモニーとプレゼンテーションが行われた。ハワイ語の祈りと言祝ぎの詠唱による、感動的な幕開けとなった。続くプレゼンテーションでは、ハワイ語で大地を表わす「アーイナ」という概念を中心に、ネイティヴ・ハワイアンの世界観について解説された。「アーイナ」は、食べることを表わす動詞の「アイ」と通じ、耕作や食事といった人々の生活と強く結びついた語である。また、祖先がその命をつなげてきた場所という意味も含意されている。このような土地についての考えかたは、自分自身に関係する特定の場所にのみ限定されるものではなく、世界全体にまで拡張されている。ネイティヴ・ハワイアンの同心円状の時間・空間把握の構造が示された。このプレゼンテーションにより、参加者はみな、”place”という主題に一気に引き込まれたように感じられた。

SamGon.JPG

昼食は、マノア校での授業期間中毎日、ハワイ大学哲学科のラウンジにて提供していただいた。この時間は、先生方に授業についての質問をするほか、学生同士で議論をしたり、学生自身の研究課題について語り合ったりなど、貴重な研究交流の場となった。こうした場でのちょっとした会話から、自身の研究についての新たな視点を得ることができ、ありがたく思った。

初日の午後には、中島先生による第1回の講義が行われた。この講義は、”Place of Japan: ‘New Universality’ of Modern Japanese Philosophy” というテーマで、特に宮沢賢治を題材としたものであった。まず、賢治にとっての浄土真宗・日蓮宗の意味合いと、彼の「羅洲地人協会」での活動を紹介され、その問題意識と取り組みを提示された。そしてこれを、鈴木大拙の『日本的霊性』の議論を用いて展開され、”earthy”なものへの着目、”earthy universality”の希求として特徴付けられた。この”earthy”という概念は、セミナー全体の主題である”place”とも強く結びつき、3週間のセミナーを通じて幾度も参照される鍵概念のひとつとなった。ニュートラルなニュアンスをもつplaceと異なり、earthyという語は、より具体的直接的で、洗練されていないというようなネガティブなイメージを与える。こうしたところからいかに普遍性を考えられるのか、というのは、参加者に対する中島先生からの非常に挑戦的な問いかけであった。

Nakajima_Hawaii2014.JPG

このように、セミナーは初日から非常に密度の高い内容であった。時差ぼけなど吹き飛ばされるような、目の覚める思いでスタートを切った。

(報告:神戸和佳子)

Recent Entries


  • HOME>
    • ブログ>
      • 【報告】2014年度東京大学-ハワイ大学夏季比較哲学セミナー(1)
↑ページの先頭へ