時の彩り(ラスト・ラン) 169
★9月、秋の気配が立ち始めています。授業は来月からだけど、すでに夏休みは明けて、UTCPも活動再開しています。わたしもゆったりペースではありますが、ブログを再開します。
プライベートな次元では悲喜こもごも慌ただしい出来事もあった(初孫の誕生/フランスの義母の逝去)夏で感慨も深かったのですが、個人的には、8月は自宅で原稿を書く日々でした。「未来」の月刊連載原稿、思うようには進まなかったけれど『絵画の哲学』(仮)の原稿、さらにはマルグリット・デュラスについてのエッセイ(河出書房新社)とか吉本隆明全集(晶文社)の月報とか小さな楽しみのエクリチュールもあって、自分のなかから言葉が出てくるのに立ち会っているのがおもしろかったですね。
8月最後の週は、わたしと同じく来春、駒場定年となる古田元夫さん企画の5日間のベトナム旅行に参加させてもらいました。総計8名の駒場チーム、ハノイ国家大学にちょっと寄った以外は、公式行事はない私的な旅。ホーチミン、メコンデルタ、ハノイ、山岳地帯の少数民族探訪とべトナムの多様性に触れた旅。わたしとしては、かつて開高健が泊まっていたサイゴンのマジョスティック・ホテルに泊まって、そのベッドで『輝ける闇』を読んでは、サイゴン河の川岸を歩くという体験が貴重でした。あれは「匂い」の小説でもあるので、「匂い」を感じられないとどうしようもないんですね。そして、デュラスももちろんサイゴンですね。だからハノイに向けて空港に向う途中、みなさんに無理を言って、中華街のショロン地区を通り抜けてもらいました。次回はあの街を歩いてみなくては・・・!ハノイは二度目で、かつて2001年に当時の古田学部長そしてわたしも評議員という立場で訪れた街、これも古田さんにお願いして同じハノイ・ヒルトンに泊まることにしてもらって、この10年余りの街の変化をいろいろ感じたりしました。豊かな経験がたくさんあるけれど、それは省略。
★昨日の日曜(9月7日)は、土方巽についてのテクスト(『未来』)を中断して、久しぶりに現代音楽を聴きに行きました。ボッツィーニ・カルテットの演奏。友人の作曲家の近藤譲さんのご招待でしたが、近藤さんの73年89年の曲を聴かせてもらいました。どこか懐かしい!さらに、世界初演というスイスの作曲家ユルク・フライ「弦楽四重奏曲第3番」————美しい「沈黙の曲」で、深い静謐の思いに誘われました。
そうそう、今年の夏のいちばんの感動は、勅使河原三郎《睡眠》の舞台、さすがパリのエトワール、オーレリ・デュポンのgracefulnessにちょっと泣きましたね。
★写真は、ベトナム旅行をごいっしょした表象文化論研究室の下城結子さんが撮ったものです。下城さん、ありがとう。順に、山岳民族の高床式のお家で村長からお茶の接待を受けるところ(隣が古田さん)、ハノイの街角・おいしいフォーの店の前にいるわたし、そしてサイゴンの『輝ける闇』です。